31.寝坊
談話室の前へ辿り着くと、お父様の声が扉越しに聞こえてきた。
何を言っているかわからないけらど、少し動揺しているようだ。
思わず耳をすませば、会話が断片的に聞こえてくる。
「本当に——?」
「はい——」
「それはうれし——」
なんだろう。お父様達にとっていい話でもあったのだろうか。
もう少し聞きたいけれど、流石にはしたない。侍女長もわざとらしく咳払いしたし。
慌てて扉から離れると、侍女長が扉をノックした。
「入れ」
「失礼します」
侍女長の後ろを歩いて、部屋へ入る。
そこにはジュリアを含め、家族全員揃っていた。
お父様は緊張しているのか、額にじんわり汗をかいている。お兄様は隠れて頬をつねっていた。
2人だけ見れば、先ほどの憶測は間違いだと判断したけれど、お母様とジュリアの反応はまた違ったものだった。
お母様もジュリアも、頬を赤らめている。ジュリアの方は心なしから目も潤んでいるように見えた。
そんな中、エドワード様は至っていつも通りだ。
「……何かあったのですか?」
流石に問いかけられずにいられなくて聞けば、皆何故か視線を逸らす。
首を傾げていると、エドワード様が口を開いた。
「少し今後のことについて、話していたんだ。伯爵、前向きに考えてくれると嬉しい」
「は、はあ」
どこか上の空のお父様。
心配だったが、お母様がワゴンに気がついたことで、その話は有耶無耶になってしまった。
軽食を食べたあと、エドワード様はまだ少しお父様と話があるようだった。
お父様とお母様が部屋に残り、お兄様とジュリアと共に退出する。
「ねぇ、お兄様、ジュリア。さきほどは何の話をされていたのかな」
「え?」
「エドワード様のこと。悪い話ではないの?」
「あ、ああ。悪い話ではないよ。むしろいい話だ」
「そうなんだ」
私が問いかけた瞬間、2人が動揺したのが分かった。
聞いても詳しいことを言わないあたり、私には話せないことなのかもしらない。
少しモヤっとするけれど、それは心の奥底に追いやることにした。
何となく1人になりたくて、2人と別れて自室に向かう。
この部屋は小さい頃と同じ部屋だ。必要最低限の家具しかないけれど、公爵邸の自室よりはずっと広い。
その広さが何となく落ち着かない。昔からの自分の部屋なのに。
自分でその道を選んだはずなのに。
今更○○○○なんて。
認められるわけがなかった。
その日は懐かしい夕食のメニューだったのに、味が全く分からなかった。
エドワード様がいらっしゃることもあって、豪勢な食事にしているのかもしれない。
そして私の好物も並んでいたから、腕によりをかけてくれたシェフの優しさを感じる。
けれど、味を感じられないのが残念だった。
◇◇◇
次の日。
悶々としてはいたけれど、旅で思った以上に疲れていたらしい。
ベッドに潜り込んで、目が覚めたら昼前だった。
いくら帰省だからといって、のんびりし過ぎた。
急いで身なりを整えて、部屋から廊下に出ようとする。
お父様はきっとエドワード様のお相手をしているだろうし、執務室に行くのは気が引けるな。
お母様はどこにいるんだろう。
そう考えながら扉を開けた時、視界の端に白いものが映る。
つられて視線を向けると、一枚の紙が落ちていた。扉に挟んであったらしい。
拾い上げると、可愛らしい字で書きつけてある。この字はジュリアの字だろう。
『お姉様、おはようございます。よく寝ているようだったので、お手紙を残しておくわね。今日はゆっくりしていいそうだから、安心して。起きたらシェフが食事を用意してくれてるそうなの。それからお母様が、食事をとったら昨日の談話室に来て欲しいって』
ふっと笑みが溢れる。
ジュリアの字は、どこか癒されるものだ。手紙の内容が、私を気遣ってくれてるからということもあるだろう。
寝過ごしてしまった手前、気まずい気持ちもあるけれどこうまでされてしまっては、従わない方が恩知らずというものだ。
手紙の通り、食堂へ向かう。
食堂から調理場へ入ると、シェフがいた。私に気がつくと、パッと笑う。
「お嬢様、おはようございます」
「おはようございます」
「体調は大丈夫ですか?」
「思っていた以上に疲れていたようで。失礼しました」
「当然ですよ。一応、消化の良いパン粥を用意しました」
「ありがとうございます」
パン粥を受け取り、近くにあった椅子に座る。
「お嬢様、食堂で食べては……」
「食堂は1人だと広くて落ち着かないのです。あ、迷惑なら移動しますが」
「そ、そんな! どうぞこちらでお食べください」
「ありがとうございます。いただきます」
私が食べ始めると、シェフは少し距離をとった。夕食の準備もあるだろう。
そういえばフォーサイス公爵家でもパン粥を貰ったなぁ、と思いながら一口食べる。
じんわり広がる温かさに、自然と息が漏れた。
フォーサイス公爵家と味付けはもちろん違う。けれどどちらが優れているとかではない。
ただ、今の方が懐かしさも相まって安心する。
トロッとしたスープもそれが染み込んだパンも、体に染み込むようだ。
味わいつつも、食べやすさが手伝ってすぐ食べ終わった。
食器を片付けようと、持ち上げる。
「お嬢様! 置いといてください! 片付けますので」
少し遠くからシェフの声が聞こえる。手が離せないのだろう。
「私、洗いますよー?」
「大丈夫です!」
「じゃあシンクに置いておきますね!」
「すいません、ありがとうございます!」
食器を移動させると、今度は談話室に向かう。
「お母様、遅くなりました」
「あら、おはよう。よく眠れた?」
「はい。おかげさまで。……ジュリアはいないの?」
手紙の内容的にいるかと思っていたのだけれど。
「ええ。少し用事があってね」
何だろうとは思ったけれど、それより何かすることはあるだろうかということの方が気になる。
「ふふ。ジェイン、何だか綺麗になったわね」
「え? 変わらないと思うけれど」
「そんなことないわ」
急にそんなことを言われて驚いてしまう。けれどニコニコ笑うお母様に、なんとも言えなくなってしまった。
誤魔化すために、私が聞きたいことを質問する。
「そうだ、エドワード様はどうされてます?」
「レイモンドと話しているわ。ところで」
ぐっと、いつになく身を乗り出してきてきたので、何となく嫌な予感を感じる。
それは大体外れることがないのが、嫌だった。
「面白かった!」「続きが読みたい!」と思ってくだされば広告下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎をポチッとお願いします!
いいね、ブクマもとても嬉しいです。
ランキングにも参加してみています!
良かったらポチッとしていってくれるととても励みになります!




