21.暴れる子には荒療治です
リリーのご乱心は、しばらく治まりそうにない。
このままでは仕事にならないと、2人からリリーと一緒にいて落ち着かせるように言われた。
「え? 私?」
どちらかというと、オリーヴの方がいいのでは。そう思ったけれど、ニコニコの笑顔で言われた。
「こういうのはジェインが一番上手だからね」
「ええ。私たちよりもリリーを落ち着かせるのは、適任よ。よろしくね」
何故か自信満々な2人に押され、断れなくなってしまった。どちらかというと厄介払いされたような感じがするけれど、ここまできたら仕方ない。私はリリーを、人気のないところに連れ出そうと腕を引く。
「離してくださいいぃ! 私はこれから地獄に行くんですうぅ!」
けれどリリーは掴まれた腕を離そうとしているため、致し方なく抱えることにする。
「きゃっ! ジェインさん⁉︎」
安定感を優先して肩に担いだけれど、リリーは羞恥心を感じたのか、じたばたと暴れる。
さすがに蹴ったり殴ったりはしないけれど、バランスが崩れる。このままではリリーが怪我をしてしまう。
「リリー、暴れたら危ないよ」
「だったら降ろしてください! 私はこれからの不運に備えるんです!」
少し正気に戻ったようだけれど、まだ暴れる。こうなったら仕方ない、ちょっと暴れにくくしようかな。
「もう、少し落ち着こう、よっと」
「きゃっ」
肩に担いだ状態から一度降ろして、今度は背中と膝裏に腕を差し入れる。いわゆるお姫様抱っこにしたら見事大人しくなった。
リリー自身のバランスが崩れやすいので、驚いたリリーは思惑通りに大人しくなる。
反射的に私の首に手をまわしてくれたので、大分安定感が出た。
「暴れたら怪我するでしょう。大人しくしてて」
「は……な、え」
ようやく我に返ったのか、見る見るうちに顔が真っ赤になる。目も潤んでとてもかわいい。
「ふぅ。やるう」
「ジェイン、貴女さすがにそれは」
正反対の反応をするオリーヴとヴァイオレット。
え? 女性がお姫様抱っこするなんておかしいって?
大丈夫。リリーは小柄で軽いし、何より日々の仕事で筋力が付いた私にとっては苦でもない。
侍女は貧弱では務まらない。ゆえに見た目以上に皆、力がある。
「リリー軽くない? もう少し食べたほうが良さそうだなぁ」
「いえ、そんなことよりも、その状態はさすがに……」
「私だったら2人ともお姫様抱っこできるよ! やってみるかい?」
「オリーヴは黙ってなさい」
うん、この中で一番体格がいいの、オリーヴだもんなぁ。背丈はもちろん、筋肉も私達の中で一番ある。
「じゃあヴァイオレットにしようか?」
「……あらいやだ。オリーヴったらとても疲れているのね。目を開けたまま寝言を言うなんて」
「じょ、冗談だってばぁ」
怖い。ヴァイオレットから怒りのオーラが立ち上っている。ヴァイオレットって、結構女性扱い嫌がるんだよね。
いやこの場合、オリーヴが調子に乗ってるから怒っているんだと思うけれど。
巻き込まれないように逃げよう。逃げるが勝ちだ。何の勝負してるのか分からないけれど。
「それじゃあ、あとよろしく!」
「ちょ、ジェイン! 置いていかないでよ!」
「あら、オリーヴは私と一緒の仕事は嫌なの?」
「そ、そんなことないさ! だからその怒気、しまってくれないかい?」
「だ、れ、のせいだと思っているのかしら?」
「ああ! ごめんなさい! ジェイン、助けて!」
「私は忙しいから失礼しまぁす!」
「う、裏切りものおおおお!!」
オリーヴの叫びを後ろに聞きながら、すたこらさっさと逃げ出した。
ちなみにこの間、リリーは放心状態で大人しくしていた。
◇◇◇
正直リリーはもう落ち着いているので、このまま解散でもいいけれど、そうなるとまたあの地獄に足を踏み入れなければならない。
その勇気はさすがにないので、当初の目的通りにリリーが落ち着ける場所に向かうことにした。
場所はリリーの部屋とも考えたけれど、誰に聞かれるかわからないので、以前日向ぼっこした森へ向かう。
一応おかしな騒ぎにならないように、人目に付かない位置を選びながら歩いていたけれど、正気に戻ったリリーが身じろぎし始めた。
「じぇ、ジェインさん、降ろしてください」
「落ち着いた?」
顔を覗き込めば、また表情を赤くする。
「落ち着きました。別の意味で落ち着かなくなるので、降ろしてください」
「分かったよ」
可愛いけれど、これ以上はかわいそうだ。そっとリリーを降ろす。
「うう……。ジェインさんって時々、意地悪ですよね」
「そういうこと言うなら、もう一回お姫様抱っこしてあげようか?」
「いえ、大丈夫です。すいません」
ううん、この素直さ、可愛い。
抱っこを止めたかわりに、リリーの手を引く。
「さ、こっちにいいところあるんだ。いこ」
「は、はい」
きゅ、と手を握り返してくるリリーの姿に、また揶揄いたい気持ちが沸き上がるけれど、これ以上は駄目だと必死に抑え込んだ。
手をつないだまま、目的の場所に歩き出す。
そうしてたどり着いた森は、あの日と同じように穏やかな表情をしていた。
「わぁ。こんなところがあったんですね」
「良いところでしょ? リリーあまり出歩かないもんね」
リリーは、一人で公爵邸を歩くということをしない。
私達は休みの日などは自由行動を許されているので、場所を覚えるという意味でも目的無く歩くこともする。
仕事内容も、そのおかげで早く覚えられることも多い。
そんな中、リリーは方向感覚が優れていて、案内の時に一周したら覚えてしまったらしい。
だから公爵邸の敷地内の歩かなくても困らないらしい。羨ましいと思うけれど、きっともう一つ理由があるんだろうなと推測している。
きっと畏縮しているんだと思う。仕事の時は割り切っているけれど、プライベートは違うのだろう。
真面目だなぁと思う。とはいえ、ある程度時間が解決するものだろう。
リリーの下に、後輩があまりいないのも原因の一つだとは思う。最初は皆畏縮するものだ。私だってそうだった。
後輩ができて案内する係になると、外の世界を歩き回るようになる。
これでリリーも、きっかけの一歩にしてほしいと思う。
目を輝かせてあたりを見渡すリリーを見ながら、そんな風に思った。
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