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婚期逃したので侍女として働いています。え⁉︎ 地味な私が歳下の公爵令息に溺愛されるんですか⁉︎  作者: 水月華


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17.美味しいご飯

「――ン? ――インってば」


 何だろう。とても良い気持ちなのに、そのぬるま湯から引き揚げようとされているようだ。


 ……もう少し、こうしていたい。


 そう思っていたけれど気持ちとは裏腹に、段々と意識がはっきりしてくる。


「ん……」


 ゆっくりと瞼を上げると、神秘的な紫が私の目の前にあった。


 キラキラ煌めいて、とても綺麗だ。


「ジェイン、私を口説いてどうするの? そろそろ昼食よ。起きなさい」

「あれ、声に出てた……」


 綺麗だと自然と声に出していたらしい。目の前の人物から、少し恥ずかしさが混ざった声が聞こえる。


 目を擦ると、ボヤけた視界がハッキリ見える。


 私の顔を覗き込んでいたのは、ヴァイオレットだった。


「あれ、私……」

「まさかこんな所で、お昼寝しているなんて思っていなかったわ」


 ヴァイオレットに言われて、曖昧だった記憶も戻ってくる。


 そうだ。日向ぼっこしていたら、あっという間に寝てしまったんだ。


 働き始めた頭がようやく現状を認識する。


「私、寝てたのね」

「それと、随分寝ぼけていたわ。よく眠れたようで良かったけれど」


 それにしてもヴァイオレットはよく私の居場所が分かったな。


 ここ、結構広いのに。


 そんな風に思っていると、目じりにヴァイオレットの指が触れる。


「良かったわ。顔色も隈も随分良くなったわね」

「本当? ここ、とても暖かったの。とても気持ち良かったんだ」

「確かにとても良い場所だけれど、レディが1人で外で寝るものではないわ」

「あはは」


 ヴァイオレットの言うことはもっともだ。まあここは公爵邸の一部なので、ある程度安全は保障されているとはいえ不用心だったのは事実である。


「いやぁ、私も寝るつもりはなかったんだよ。気が付いたら、ね」

「……まあ、今日は良いわ。それより昼食の時間だから、オリーヴとリリーで手分けして探してたのよ」

「嘘、わざわざごめんね」

「いいのよ。それじゃあ行きましょうか」

「はあい」


 ヴァイオレットと共に屋敷に戻る。


 途中でオリーヴとリリーとも合流して、食堂に向かった。


 

 ◇◇◇



 食堂の使用時間はある程度決まっている。


 皆交代で食事を取り、約1時間の休憩を許される。


 食事の内容は基本的に皆同じものだけれど、早めに希望を言えば対応してくれるのでとてもありがたい。


 食欲は出てきているけれど、念のため昼食も胃に優しい料理にするようにヴァイオレットに言われた。というか、すでに伝えてくれてた。


 ヴァイオレットは本当によく気が利くお姉様だ。年齢もあって、よく一緒に行動する私達の中では一番のしっかり者だ。


 今回はミルクリゾットを用意してくれていたらしい。


「はい、どうぞ! 体調はどうだ?」

「おかげさまでだいぶ良くなりました。夕食は皆さんと同じで大丈夫です」

「そうか! ジェインさんは良く働くからな! 無理しすぎないように!」

「はい、気を付けます。ありがとうございます」


 シェフは公爵邸にいる全ての人を覚えているらしい。


 少しでもいつもと違うところがあると、すぐに気が付くほどなのだからすごいと思う。


 シェフが作ってくれたミルクリゾットは、朝のパン粥より少し具材が多くて味も濃くなっていた。けれど程よいとろみも付いていて、食べにくいと言ったことは全くない。


 優しくて、元気が出るような味だ。


 旦那様達への食事はシェフの中でも、特に腕が立つものが作っている。


 あのシェフだって、とても美味しい料理を作るのに更に上がいるというのは驚きだ。


「美味しいね! 本当、労働した体に染みるよ」

「はい! これで残りも頑張れます!」


 オリーヴとリリーも美味しそうにご飯を頬張っている。


 ちなみに皆の食事は、パンやサラダ、チーズなどが用意してありバランスが良い。


 もちろん、旦那様達が消費しきれなかったあまった野菜などがこちらに流れてくることが多いけれど、それでも使用人たちにもバランスの取れた食事をと心を砕いてくださるのは、とても嬉しい。


 というより、食べ物が腐ってしまったら勿体ない。だったら使用人が食べますと言い出したから始まったらしい。


 どちらにせよ、美味しい料理にありつけることは何よりの喜びだ。


 2人の笑顔に癒されながら、リゾットもペロリと平らげた。


 食後の団らんを楽しんでいると。


「私も相席良いかしら?」


 突然の声に驚いて振り返ると、マティルダさんがトレーを持って立っていた。


「マティルダさん。もちろんです」

「ありがとう」


 そう言うと、私の隣に腰を下ろす。


 もちろんですと反射的に答えたものの、昨日の件でとても気まずい。


 食べ終わっていて良かった。急に味が分からなくなるところだった。


 そんな内心を出さないようにしつつ、そっとマティルダさんの動向を窺う。


「ジェイン、体調はどうかしら?」

「は、はい。おかげさまで、だいぶ良くなりました」

「それは良かったわ。……きっと昨日のせいよね。ごめんなさい」

「い、いえっ! マティルダさんが謝られることではありません」


 こそっと3人に聞き取れない声量で謝罪される。


 驚いたけれど、私も声を抑えて答える。


 昨日のことは、色々な意味で3人には詮索されたくない。


 マティルダさんも、そのあたりのことを考慮してくれたのだろう。


「マティルダさん、ここで食事なんて珍しいですね?」

「たまにはここで食べるようにしているの。皆の様子も見れるように」

「さすがですね!」


 オリーヴの疑問に、マティルダさんはそう答える。


 ちなみに普段は令嬢らしからぬ物言いが多いオリーヴだけれど、ちゃんと時と場所を選んでいる。


 そうでないと、公爵家の侍女ではいられない。


 なんというか、()()という呼び方がしっくりくるような人だ。


「ジェイン、無理はしないようにしなさい。侍女の人数は十分足りているのだから、休めるときに休まないとだめよ」

「はい、マティルダさん。ありがとうございます」


 その後も取り留めのない会話をしていたけれど、私たちは先に休憩の終了時間が迫っていた。


「マティルダさん、そろそろ仕事に戻ります」

「ええ。よろしくお願いするわ」

「って、ジェイン。貴女はお休みよ」

「そうでした」


 大分快復していたので、働く気満々になっていた。


 けれど皆に止められたので、大人しく休むことにする。とはいえ、ずっとここにいてはこれから来る人たちの邪魔になる。


 そう思い退席する旨をマティルダさんに告げる。


「ええ。念のため、今日は休んでおきなさい。……それから」

「はい?」


 ちょいちょいと手招きするマティルダさんに、顔を近づけると耳元で言われた。


「……エドワード様から何か言われたら、私に遠慮なく言ってちょうだい。私は貴方の味方だから」

「あ、ありがとうございます」

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