13.2人のお茶会
過去のお茶会の風景を思い出しながら、そっとカップにお茶を注ぐ。
静かに、飛び散らないように。
開き直ったとしても、緊張を取り去ることはできない。
なんとか震えずに淹れることが精一杯だった。
お茶が入ったカップをエドワード様に差し出す。
カップが2つあるので、これは私用ということなのだろう。そちらにも淹れた後、私は椅子に座り直した。
私が初めから用意したわけではないけれど、何も毒物は入れていないと証明するために、一口飲んだ。
「どうぞ、エドワード様」
「……ああ、ありがとう」
一瞬間があったので、何か粗相をしてしまったかと内心とても不安になる。
恐る恐る様子を窺うけれど、何か叱責されることはなく、エドワード様は上品な仕草でお茶を飲んだ。
私は侍女となってからは、社交界にはほとんど出ていない。働いていれば、そんな時間はないどころか、フォーサイス公爵家が会場となることもある。そうなると準備もすることになるので当然のことだ。
そのせいかブランクができてしまい、マナーが疎かになってしまっているのを自覚する。エドワード様の前で拙いマナーをしてしまうことが、とても恥ずかしく感じてしまう。
せめてもの矜持として、そんな感情は表に出さないようにするけれど、それが逆に惨めに思えた。
「うん、美味しいな」
「はい。流石ですね。渋味もなく、程よい味わいです。どなたが用意してくれたのでしょうか」
「マティルダだ」
「流石侍女長です」
マティルダさんが淹れたのなら、この味も納得だ。
あんなに緊張していた体が自然と余分な力が抜けるような、ホッとする味に自然と口角も上がる。
「いや、そうではなく」
「?」
そう考えていると、エドワード様の言葉に顔を上げる。そしてすぐに後悔した。
「ジェインの淹れ方も上手なんだろう。お茶の香りがよく立っている」
エドワード様の表情は、とても甘かった。甘すぎて、とても渋いお茶が飲みたくなるほどに。
「……お褒めの言葉をいただき、感謝します。ただこれも、マティルダ侍女長の腕があってこそでしょう」
「ジェインは謙虚なんだな」
とりあえずその甘い表情をしまってくれないだろうか。
私だって女だ。そんな見た目麗しい人から甘い表情を向けられたら、胸が高鳴るのは当然だ。
感情が表に出ないように注意しながら、なぜか私を評価してくれるエドワード様に言う。
これ以上エドワード様が甘い表情を振り撒いていては、被害が出かねない。主に私に。
「謙虚ということではなく、身の丈にあった評価です。エドワード様、差し出がましいこととは存じておりますが言わせていただきます。褒め言葉を使う相手は選んだ方がよろしいかと思います」
「なぜ?」
「エドワード様はご自分の容姿が整っていることは自覚しておられますか?」
「……自分で言うのもなんだが、自覚はしている」
良かった。これで自分は不細工だなんて言えば、世界中を敵に回していると説教しているところだった。
「容姿が整っているというのは、それだけで相手――特に異性は惹かれるものです。それに加えて表情1つで自意識過剰になる方もいます。ですので誰彼構わず褒めるというのは、場合によってはあらぬ災難を呼ぶこともあります」
「ふむ」
「もちろん、エドワード様の素晴らしいお人柄もあって、お相手の良いところを見つけることができることとは思います。悪いこととは言いませんが、使いどころは大事かと」
しまった。ここでようやくしゃべりすぎたと自覚する。
たかが一介の侍女が、雇い主の家族に説教するなんて。おこがましいことをしてしまった。
けれど、エドワード様が色々な方向に愛嬌を振りまくと、近いうちに戦いが起きてしまいそうだ。
その時に巻き込まれたくもないので、釘を刺してしまった。
「俺は誰彼構わず褒めないぞ?」
「専属でもない侍女を名指しで褒めるのは、違うとおっしゃるのですか?」
「ああ」
ええ? 素直に疑問だ。あ、もしかして、私以外にもそういう対応を?
それに今まで接点という接点はなかったのだ。そう思うのが当たり前なのだ。私は特に、エドワード様に気に入られるようなことはしていない。
私の自意識過剰だろうか、と考えていた。いや、周りの反応を鑑みると、やはりエドワード様には警戒心を持ってもらわないと後々面倒なことになるかもしれない。
そう考えていたが、エドワード様が言う。
「ジェインのことは、マティルダや他の者から聞いていたからな。気になっていたんだ」
「私の話をしていたというのですか?」
「ああ。背景も気になって調べた。俺の部屋にも、幾つかアトウッド伯爵家の家具が置いてある」
「フォーサイス公爵家にも使っていただいていたとは……光栄の極みです」
最近は王家に献上できるほどのものは、作ることができていない。
それでも他の家が気に入って貰えたのなら、とても光栄なことだ。
「エドワード様のような方に、お褒めの言葉を頂戴するとは。父や母に言えばとても光栄なことでございます」
「ジェインは家をどう考えている?」
突然の質問に、私は顎に手を当てる。
聞かれているのは家族との仲か、伯爵家としての価値か。どちらかうまく判断ができない。
けれど消去法で考えれば、平凡どころか一時期没落の危機まであった家だ。家族仲を聞くより、伯爵家の価値が知りたいだろうと結論づけた。
「まだ元通りというわけではありませんが、ようやく何とかなるところまで回復できたかな、と考えています。それは家族と領民の尽力あってこそのこと。とても喜ばしいことです」
私の言葉に、エドワード様は表情を微かに歪めていた。
もしかしたら、余分なことまで言ってしまったのかもしれない。
そんなことを考えていたけれど、エドワード様は再び微笑む。けれどどこかその表情は硬くて、身構えてしまう。
「……それより俺からも良いか?」
「はい」
やっぱり調子に乗ったことを、怒られるのだろうか。言い過ぎた自覚はあるので、謝罪しなくては。
そう思い、謝罪しようとしたその時。
「面白かった!」「続きが読みたい!」と思ってくだされば広告下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎をポチッとお願いします!
いいね、ブクマもとても嬉しいです。




