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第八話 「違和感」

黒崎かなでは、今日もいつも通りだった。


窓際の席。


静かな声。


周囲へ自然に集まっていく人達。


「だから、人って“理由”があると安心するの」


放課後の教室で、

かなでは穏やかに話している。


「偶然でも、“きっと意味がある”って考えたくなるから」


「えー、なんで?」


「理由が分からないものって、不安なんだよ」


周囲が「へえ」と頷く。


葵も、いつものようにその輪の中にいた。


全部、いつも通りだった。


かなでは静かに笑っているし、

周囲も楽しそうに話を聞いている。


途中で「難しいー」と笑う子がいて、

かなでも小さく笑う。


何も変わっていない。


なのに。


葵の胸は、

ずっとざわざわしていた。


説明できない。


何かが違う。


でも、

何が違うのか分からない。


かなでが休んだからだろうか。


それとも、

誰もそのことを気にしていなかったからだろうか。


あるいは。


“知りたいかい?”


あの言葉が、

まだ頭に残っているからかもしれない。


「山本さん」


不意にかなでがこちらを見る。


黒い瞳。


静かで、

吸い込まれそうなくらい落ち着いた目。


「今日、少し静かだね」


「えっ」


葵は慌てて顔を上げた。


「そ、そう?」


「うん」


かなでは少しだけ首を傾げる。


「考え事してる顔」


また読まれた。


葵は小さく息を吐く。


最近では、

驚くより先に、

「またか」と思ってしまう。


かなでは本当によく人を見ている。


もしかしたら。


今、自分が感じている違和感の正体も、

かなではもう分かっているのかもしれない。


でも、

葵は聞かなかった。


聞いてしまえば、

何かが変わる気がした。


だからいつものように、

かなでの話へ耳を傾ける。


「人ってね、“違和感”をすごく嫌うんだよ」


かなでは頬杖をつく。


「違和感?」


「うん。小さいズレがあると、無意識に理由を探し始める」


「例えば?」


「いつも置いてある物の位置が少し違うだけで、なんか落ち着かなかったりするでしょ」


「あー、分かるかも」


かなでは静かに頷く。


「でも面白いのは、“何が違うか分からない”時のほうが不安が大きいこと」


葵の心臓が小さく跳ねる。


かなでは、

こちらを見ていなかった。


ただ、

いつものように心理学の話をしているだけ。


なのに。


まるで、

今の自分の心を説明されているみたいだった。


「人は、“答えのない違和感”を放っておけないの」


夕陽が教室へ差し込む。


かなでの黒髪が、

赤く柔らかく染まっていた。


葵はぼんやりと、

その横顔を見つめる。


自分は何を気にしているんだろう。


かなでが休んだこと?


誰も気にしていなかったこと?


それとも。


かなで自身のことを、

自分は思っていたより気にしていたのだろうか。


そこまで考えて、

葵は小さく首を振った。


分からない。


まだ、

うまく言葉にできない。


ただ。


かなでのことを考えていると、

時々胸がざわつく。


それだけは確かだった。


「山本さん」


また名前を呼ばれる。


「え?」


かなでは小さく目を細めた。


「今、ちょっとだけすっきりしたでしょ」


葵は思わず苦笑する。


「……また当てた」


かなでは静かに笑う。


教室には、

いつもの笑い声が響いている。


夕方の風が、

ゆっくりカーテンを揺らしていた。


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