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第四話 「また明日」



黒崎かなでと一緒に帰るようになってから、

山本葵は少しだけ放課後が楽しみになっていた。


かなでは本当に色々なことを知っている。


それも、

テストに出るような知識ではない。


もっと、

日常の隙間に落ちているような話だ。


「この川ね、昔かなり大きな洪水があったんだよ」


帰り道。

夕焼けに照らされた川沿いを歩きながら、かなでは静かに言った。


「えっ、そうなの?」


「うん。今は整備されてるけど、昔はよく氾濫してたみたい」


葵は川を見る。


穏やかに流れている。


とてもそんな危険な川には見えなかった。


「あと、あそこのお地蔵様」


かなでは少し先を指差した。


住宅街の角に、小さなお地蔵様が立っている。


赤い前掛けが風に揺れていた。


「あれ、一回なくなってるんだよ」


「えっ?」


「誰かが持って行ったのか、災害で流れたのか分からないけど。昔、急に消えたらしいの」


「こわ……」


「でも、いつの間にか戻ってきてたんだって」


かなではまるで、

「今日は少し風が強いね」

くらい自然な口調で話す。


自慢げではない。


知識を披露している感じでもない。


ただ、

知っているから話している。


そんな風だった。


葵は時々、

かなでがどこでそんな話を覚えてくるのか不思議になる。


心理学だけじゃない。


歴史。

噂話。

土地の話。

人の癖。


かなでは何でも知っている。


しかも、

誰かに話しかけることを全然怖がらない。


店員さんとも普通に話すし、

近所のおばあさんとも自然に会話する。


まるで、

最初からそこに馴染んでいたみたいに。


葵には少し信じられなかった。


自分なんて、

人前で話すだけで緊張する。


知らない人と会話なんて、

できれば避けたいくらいだ。


「山本さん」


かなでが不意にこちらを見る。


「今、“いいな”って思ったでしょ」


「えっ」


また読まれた。


「顔に出てた」


かなでは小さく笑う。


「人って、羨ましいと思った時、ちょっとだけ視線が下向くこと多いんだよ」


「そ、そんなの分かんないって……」


「分かるよ」


かなでは当たり前みたいに言う。


「だって、人って、自分の気持ち隠してるつもりでも結構出てるから」


夕焼けの光が、

かなでの黒髪を赤く染めていた。


その横顔を見ながら、

葵は少しだけ思う。


この人は、

本当に人を見るのが好きなんだな、と。


気付けば、

駅前まで来ていた。


人通りが少し増える。


かなでは立ち止まった。


「私、こっちだから」


細い路地の方を指差す。


「また明日」


そう言って、

かなでは自然に手を振った。


また明日。


たったそれだけの言葉なのに、

妙に胸へ残った。


「あ……うん。また明日」


かなでは小さく笑い、

そのまま路地の向こうへ消えていく。


葵はしばらく、その背中を見送っていた。


それから、ふと気付く。


――あれ。


なんで私は、

ここで別れるって分かったんだろう。


かなでは、

一度も「家がこっち」なんて話していない。


駅まで一緒に帰るものだと思っていた。


なのに。


かなでが立ち止まった瞬間、

葵は自然に「あ、ここで別れるんだ」と理解していた。


まるで、

最初からそう決まっていたみたいに。


夕暮れの風が静かに吹く。


葵は少しだけ、

背筋がぞわりとするのを感じていた。

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