第167話 法術特捜執務室……『鋼鉄の処女』の牙城
誠はやけに静かな法術特捜の執務室の前に立った。
いつもなら明るく元気なこの部屋の主嵯峨茜警部の部下であるカルビナ・ラーナ巡査の笑い声が聞こえるこの部屋は不自然なほどの沈黙に包まれていた。
「隊長はああ入ったけど……祥子さん……茜さんをターミネートしたんじゃないのか?」
誠は冗談めかしてそう言った。
ただ、機動部隊の詰め所で勤務していた午前中の間にミニガンの独特の引き裂くような発射音が響かなかったので特に何も起きていないだろうと自分に言い聞かせて誠は部屋の扉をノックした。
『はい!ああ、千代さんが出ていただけるの?ではお願いできます?』
部屋からは落ち着いたいつもの茜の声が響いてきた。そして、ドアが開いて現れたのは身長187cmの誠より一回り長身の千代の長い黒髪だった。司法局の制服と巡査部長の階級章をきらめかせる千代は今朝会った時とはどこか違う雰囲気をまとっていたのが気になるところだった。
『何が有ったんだ……祥子さんは変態だからな……ついに『鋼鉄の処女』と呼ばれる恋愛や性と限りなく遠い存在の茜さんすら祥子さんの変態に当てられて変態になったのか……』
どこか恥ずかしがりながら千代は黙って誠を部屋に導くと急いでいつもラーナが座っている席に腰かけて恍惚の表情を浮かべてのんびりしていた。
そのどう見ても『奇行』としか思えない千代の態度に不思議に思っていた誠が部屋に入るとかつて一個だけ置かれていたラーナの隣の法術特捜の主席捜査官である茜の席の隣に仲良く同じような机が並んでおりそこには当然というような顔で警部の階級章を付けた祥子が座っていた。
応接セットの隣にミニガンとそれに弾丸を補給するラックが置かれているのがあまりにシュールだった。
「珍しいですわね、誠さんがここに来るなんて……何か気になる事でも?ああ、祥子さんのことでしょ?私も祥子さんにはちゃんと指導してあげるから……誠さんをあの淫らなかえでさんから解放されるために私は協力を惜しみません!」
誠を見るなり茜は立ち上がり右手を力強く握りしめてそう叫んだ。
かえでと茜が犬猿の仲なのは誰もが知るところだった。男は自分を性的に満足させる汁と棒の所有者であると公言し、すべての美女は自分のものだという態度で口説いて回るかえでと、同性愛は愚か男女が仕事と関係のない話をする事さえ『不潔』と決めつける茜の考え方が合うわけがないのは誠にも理解できた。
ただ、茜の隣の席で静かに茶をすすっている身長2メートルを超える女ターミネーターである祥子の性的嗜好はかえでのそれをはるかに上回る変態性を秘めていることを誠は知っていた。
そんな茜と祥子が幼馴染とは言えどう話を合わせているのか誠は視界に苦しみながら黙って誠を応接セットに導く千代についてそのままソファーに腰かけた。




