第153話 女ターミネーターが四番に座らない理由
「祥子さん!千代さんって野球をやってたんですか?」
誠はかなめを聞いてそう驚きの声を上げた。
「ああ、私の学友として父上が選んだので同じ武家貴族で本来は俺と同じような武家貴族が通う軍学校である高等予科に進んだ。アイツも俺も野球部だった。当然監督を脅して俺がエースを務めたが……俺は四番は嫌だと言ったんだ」
祥子がさらりとそう言う様をかなめは満足げに見つめていた。
この場にいるかなめ、かえで、そして隊長の『駄目人間』の嵯峨もまた甲武国の本来は武家貴族が軍人になるために通うエリート校である高等予科学校の出身者だった。本来なら武家の中でも爵位のあるものが通う学校なのだが、そもそも公家のかなめやかえでや嵯峨が通うのはかなり異例のことで、ましてや爵位の無い祥子の家臣にしか過ぎない千代が通うのはあり得ない事だった。
ただ、高等予科学校は同じ軍を目指す若者が入る士官学校に入るための予備校ともいえる爵位を持たない士族達が未来のエリートを目指して受験する陸軍予科学校や海軍兵学校予科部とは違ってかなり自由な校風だと誠は知らされており、そんなことから生身だった当時もかなりの自分勝手で何をするか分からない存在であったのだろう。
「祥子ちゃん、なんで四番は嫌なの?四番こそ野球の打の華じゃないの!私は誰かさんのせいで無理やり三番を打たされてるけど」
いまだに『四番・サード』にこだわりのあるアメリアはその長身でこの立派なリムジンの天井に何度も頭をぶつけている祥子にそう言った。祥子の体格は栄養状態のあまりよくない甲武ではほとんど『巨人』と言っていいレベルと言える。確かに、司法局には『鏡大最強の四番』と呼ばれた祥子よりもさらに身長が高く横幅もはるかに大きい、ランの前任の機動部隊長だった渉外担当部長の明石清海中佐と言う例外がいるが、甲武の中等学校……東和だと高等学校の生徒たちの体力が祥子にかなうとはとても思えなかった。
「それは決まっている。俺は初回から打席に立ちたい。四番だと誰かがランナーに出ないとそのまま初回は終了だ。そんな屈辱は俺は認めん!」
力強く右手を握りしめて祥子はそう叫んだ。
「まあ、確かにそうだが。それで西園寺……原田の実力、貴様は知ってるんだろ?私もショートとして内外野どこでも守れるがファーストとしては普通程度のパーラの守備には不満を持っていた。教えてくれ」
いかにもショートの名手として千要草野球リーグでは『カウラゾーン』と呼ばれる驚異的な守備範囲を誇る名手のカウラは興味深げにかなめに尋ねた。
いつもは真面目なカウラが簡単に話に食いついてきた状況に不敵な笑みをして腕組みをしていたかなめは静かに口を開いた。




