第142話 キレる関白と世渡り上手の『戦国の雄』
「おい!アメリア!カウラ!何してくれるんだ!」
そのタイミングでハスキーな女性の怒鳴り声が食堂の入り口から次々と誠達の異常行動から逃げ出そうとする寮生をかき分けて聞こえてきた。
かなめである。いつもの黒い革ジャンにダメージジーンズを着込んだかなめの姿を見ると祥子は弾かれた様に片膝をついてかなめに頭を下げた。誠が食べ終えた牡蠣の殻を片付けていた千代も大皿をテーブルに置いてこれにならう。
「あら、かなめちゃん。意外と早かったのね。簀巻きにするときワイヤー入りのロープを使ったはずなのに」
平然とアメリアはそう言って高橋の差し出してきた熱いお茶を飲んでいた。
「ああ、通りでな。切るのに時間がかかった。それより、アタシをあんな目に遭わせた落とし前、きっちり付けろよ!」
「変態は変態らしく自室でむしろに巻かれてワイヤー入りの荒縄でぐるぐる巻きにされているのがお似合いではないのか?」
同じく茶を飲みながらカウラもまた涼しい顔をして怒り狂って大股で歩み寄ってくるかなめに無視を決め込んでいる。
要するにあの後、全裸で欲情して眠っているかなめを部屋まで運びむしろで巻いてワイヤー入りの荒縄で巻いて動けなくしたという事実を誠はこの時点で初めて知った。
「これは、関白殿下。ご機嫌うるわしゅう」
これまでの誠達への偉そうな態度を急変させて平身低頭する祥子がそう言った。その様子と隣で同じくさらに低く頭を下げる千代を見てかなめは毒気を抜かれたように千代が立った席に身を投げようとした。
「ああ、関白殿下の席はそこではございません。俺がそれにふさわしい席を用意させました。料理も俺がこの隊の『釣り部』が運んできた中で俺の目にかなった食材ばかり用意しました。存分に楽しんでください」
そう言うと立ち上がった祥子は奥の席を指さした。
そこはいつも元副寮長の菰田が座っていた定位置だった。肝心の菰田は副寮長の地位をリンに奪われてからは寮に居場所がなくなったのか食堂ではなく自室でカップ麺だけで生活する日々を過ごしていたので元々嫌われ者の菰田の席に座りたがる寮生はいないのでいつもそこは空いている席として寮では知られていた。
そこにやたらと豪華な椅子が置かれ、以前かえでに連れて行ってもらった料亭のようなこぎれいな食事準備が整っている。
「おう、蔵人守。気が利くな……」
怒りにおいては『瞬間核融合炉』と呼ばれるかなめだが、冷める速度も常軌を逸しているのは誰もが知るところだった。そして、『奥州の雄』と呼ばれ『女独眼竜』と恐れられる祥子が自分には頭が上がらないんだという事実をライバル視しているアメリアやカウラに見せつける快感に酔っているかなめはすっかり上機嫌でその祥子のあつらえた『関白の席』に向って歩いて行った。




