第122話 いきなり切腹は伝家の宝刀
「むぅ……」
長身の頭の後方からポニーテールと言うより戦国時代のじゃじゃ馬姫のように後ろにまとめて長くなびく髪を揺らしながら祥子はその場にひざまずいた。
「千代、アレを持て」
静かに祥子はそうつぶやいた。千代は何も言わずに軍用車両の後部ドアを開いた。長身の千代はそこから大きな白木の箱を取り出した。
「もしかして桐の棺桶?ギャグじゃなくって本当にみられるのね!」
アメリアが喜んで言うようにそれはどう見ても2メートル近い祥子でもゆうに入れるような棺桶だった。
「武士たるもの……常に死を考えておくべきもの……関白殿下への数々の無礼。これは万死に値する所業……なにとぞここで切腹して果てる許可を俺にくれ」
そう言うと千代に脇に棺桶を置かせて祥子はサバイバルナイフを手に持った。
「おい、伊達。貴様が異常な思考の持ち主で甲武の侍はやたら切腹するとは話には聞いているが寮の前でそんなことをされると迷惑なだけだ。止めろ」
カウラはそう言って誠の手を放して祥子の手に握られたナイフを奪おうとする。しかし、最新鋭の義体の持主である祥子の力の前ではどうすることもできない。
「関白殿下……ご下知を……」
そう言うと右目の眼帯が目立つ厳しい容貌の祥子はかなめを見上げた。
「腹を切るだ?どうせオメエの事だ。腹を切っても、その義体の持ってる止血機能で死なねえわな。それで棺桶に入ってそのまま東和のオメエの義体を作ってるメーカーに行って新たな義体を用意してそっちでまた同じことをするわけだ。金の無駄な。まさに小田原攻めに遅れてきてオメエの尊敬する先祖がやったことと同じことだな。その時も政宗は死ぬ気なんてこれっぽっちも無かった。ただ格好良いからってそんな馬鹿なことをするわけだ」
呆れた様子で止めもしないかなめは平然とタバコに火をつける。
「祥子さん!そんな自分を傷つけるような真似は止めてください!認めますから!祥子さんは僕の物です!でも襲ったりするのは……できないですけど……」
誠はまさに血を見る修羅場の原因が自分だという自覚はあったのでそう言って、切腹の準備を進める祥子の前にしゃがみこんだ。
「誠君、そういう時は祥子君の唇を奪ってあげると良い。僕とのキスで君は多くを学んだはずだよ」
背中を押すようにそう言うかえでの言葉に決意を固めた誠は祥子の顔を引き寄せ無理やりその唇を奪った。
一瞬驚いたような顔をした後、恍惚の表情を浮かべ誠の唇の中に舌を絡めてくる祥子。その手のナイフは自然と手から落ちていた。
そして抱き合う二人……かえでは微笑み、かなめは呆れ、カウラは呆然とし、アメリアはにやにやと笑っていた。
そしてその様子をようやく自分だけ逃げる準備をしていたリンも車を降りて駆け寄って嫉妬に狂った視線で甘いキスを交わす二人を見つめていた。




