第112話 地球人の民衆はまず戦争と殺戮を望む
「まあ、それでもその雑巾がけ以外何もできない労働者たちにそれ以上のことを望ませず、金持ちが自分の金を一切税金として国を治めずに食うに困っている連中から搾り取るだけ絞って自分達は飢え死にしても当然の存在なんだと思い知らせる必要があった。それに使ったのがネットとメディアだよ。ああ、甲武にはどっちも無いねえ……まあ遼帝国はどっちにも関心の無い旅愁人ばかりの国だから関係ないと言いたいがあそこにも地球人が1%ほど暮らしててね。連中はネットとメディアが無いと一日たりとも生きていけないんだ」
カラは皮肉めいた笑みで桐野を見つめた。
「俺は未だに通信端末の使い方が良く分からん。それにテレビやラジオの何が面白いかもさっぱり理解できない。あんなものを見るぐらいなら芝居でも見に行った方がマシだ……まあ、俺には女を斬って犯す方が楽しいがな」
桐野の言葉を予想していたような笑みを浮かべるとカラは話し続けた。
「だから政府は税金でネット環境とテレビを雑巾がけ専門の労働者に強制的に配った。そして連中はネットに自分達のSMS……ああ、そんなものは通信端末のスカイ方すら知らないお前にはわからないだろうねえ……いわゆるその機械に繋がっている人物なら何でも好きなことを書いていいといういわゆる掲示板さ……それを用意した」
カラの言葉に桐野はけげんな顔をした。
「そんなことをしたら自分の利益の為だけに政治をしている金持ち連中は困るんじゃないのか?自分に不都合なことを書かれて……」
そんな桐野の当たり前の質問をカラは軽く手を差し出して制した。
「アンタは所詮人斬りだってことが良く分かるねえ……本当に元地球人の国の甲武の出身なのかい?甲武があの負けると決まってる戦争に突っ走っていった時、一番それを喜んでいたのは誰だか見ていなかったとは言わせないよ」
カラの言葉で桐野はその桐野の知らないSMSの中に流れる空気という物を理解した。
「当時は一番過激に地球圏との戦争を望んでいたのは庶民だった。特に身分の低い平民ほどそれを望んだ……当時、俺はまだ下士官訓練中だったが、そんな軍人の卵の俺ですらこの戦争は負けると思ってた。でも、その街を歩く戦争なんか自分には関係ないと思っている女子供はまるで戦争が起こるのを芝居見物に行くように楽しみにしていた……そのSMSとやらでも雑巾がけしかできない馬鹿達が政治家を讃えてついでに敵を皆殺しにしてくれとでも書き込んでいるんだろ?地球人のやることはどこでも同じだな」
桐野は吐き捨てるように若かりし頃に見た異様な民衆の熱気を思い出しうんざりしたような顔で空のグラスに目をやった。




