第105話 終業……それは死地への旅立ち
それからの午後の勤務。
端末に表示される年初の訓練計画書を見る誠の目は完全に死んでいた。
『僕に待つのは『死』か……その祥子さんにおもちゃにされる……いや、かえでさんと同じ趣味らしいからおもちゃにして満足させないと……これもまた『死』……完全に詰んでいる……これが地球人の言う『モテている』という状況なのか?選択肢は72人の奥さんを貰っての腹上死か、『女独眼竜』の立派な調教師になりそこなって頭に来た『女独眼竜』にミンチにされる……』
青い顔のままの誠を時々リンが心配そうに見つめてくる。
「誠様。ご安心ください。このリン……たとえ命に代えてもあの『女独眼竜』の野望を挫いてごらんに入れます」
珍しく燃える瞳でそう言うリンの腹黒エネルギーに支えられて誠はなんとか終業までの時間を過ごした。
「おい、かえで。今日だけだかんな。オメエと同じ車に乗るのは」
終業のベルと同時につかつかとかえでの第二小隊の小隊長の机に歩み寄ったかなめはそう厭味ったらしく言い放った。
「僕もそのつもりだよ。僕があの『女独眼竜』を上手くだまして姉さんに矛先を向けるように仕向ける……それも悪くないんじゃないかな?あの女は強引すぎて恋の駆け引きはまるで苦手だ。その点、僕は女性の心を知り抜いている……あの女に誠君への思いは偽りで本来の同性愛者である自分を思い出させてあの女の理想とする『強くて権威を持つ女』である姉さんに目を向けさせる……その際はせいぜいあの『女独眼竜』の自慢のミニガンでひき肉にされないように気を付けた方がいい。あの女は愛するがあまり何人かの部下をそんな目に遭わせている……名門伊達家を取り潰す訳にもいかないということでそれをうやむやにするのに僕がどれだけ苦労したか……ちょっとは分かってくれると嬉しいな」
感情で動くかなめに倍の言葉で理屈でねじ伏せるかえで。二人の様子を見ていて誠はさらに寮に帰るのが怖くなった。
たとえ防弾装備のリムジンとは言え飛行戦車を堕とす威力の『砲撃系』法術で威力増加させられたミニガンの走者を食らえばひとたまりもない。
「やっほー!みんな暗いわね!お仕事終わりよ!」
ランと事情をまるっきり理解していないアン以外は憂鬱な表情を浮かべている機動部隊の詰め所に飛び込んで来たのは最近巷で話題の深夜女子高生もの鬱アニメのヒロインが崖から飛び降りる時に来ていた紺のダッフルコートのコスプレをしたアメリアだった。
「アメリアさん、他人事じゃないんですよ。この建物に年中ミニガンを持った人がウロチョロすることになるんですよ。気にならないんですか?」
誠は何処までも明るいアメリアの態度に違和感を感じてそう言った。
「大丈夫だって!この建物には茜ちゃんがいるじゃない!祥子ちゃんは茜ちゃんの前では常識人。茜ちゃんが『隊舎ではミニガン禁止』と言えば従うわよ」
どこまでも楽天的なアメリアの態度に腹を据えかねたのかかなめは今度はアメリアに歩み寄った。
「そうだろうな。ミニガン禁止と茜が言えば従うだろうな。そして次はロケットランチャーを持ち歩く。そしてロケットランチャー禁止と言えば次はRPGだ。そう言う鼬ごっこが永遠に続くわけだ」
祥子の思考回路は似たような行動原理で動いている同じ戦闘狂であるかなめには理解できるらしくそんな嫌味をアメリアに吐いた。




