第103話 片目のターミねーちゃん
「で、まあ面白がるのはこれくらいとしてだ。茜……アイツはいずれ司法局でも出世街道を突き進むことになるだろーな」
ランはようやく将棋盤を横に置いて腕組みをしてかなめを見上げた。
「あの伊達……甲武海軍でもかえで以上の問題児として有名だ。命令無視は日常茶飯事、部下へのパワハラと言うか部下を平気で射殺した記録が数件ある。そしてセクハラ……日野……オメエは『合意の上だ』とか言ってるがアメリアに聞けばわかるがアタシん所にも運航部の女子数名から相談が来てるんだ。まあ、伊達のそれはほとんど犯罪だがな。そして上官を脅して意地でも飽和火力を使っての敵の完全せん滅作戦以外をやろーとしねー」
ランはうんざりした表情でそう言って話を続ける。
「アイツの戦法は飽和火力を使った皆殺しだ。だから責任を取りたくねー甲武海軍はろくに経験もねーアイツに陸戦一個中隊の中隊長をまかせた。そしてその戦場はベルルカン大陸の一番戦闘の激しい地帯ばかり。敵はアイツは敵は絶対に皆殺しにするという信念を持ってるからそんな過激な武装組織相手の荒事ばかりを担当させられてきた。しかも本人も嬉々としてそれをこなしている……あんなのアタシの部下とは呼びたかねーや」
ランの口から放たれるのは祥子の攻撃性、残虐性、身勝手さばかり。そのすべてがまるで殺人狂のかなめがかわいく思えるほどのレベルなので誠は絶句するしかなかった。
「でもー……法術師としての才能はかえでちゃんクラス。サイボーグの義体の性能もかなめちゃんの比じゃない……ただ誠ちゃんのストーカーとしてこの街をうろうろさせておくのはもったいないなーとか思わない?」
そこに口をはさんだのは意外にもアメリアだった。その糸目と何を考えているのか分からない笑み。誠とカウラは明らかにアメリアが証拠を茜と合わせたことには何かの理由があると考えるようになった。
「まーな。このままじゃアイツがこれまで起きた法術犯罪の中の最悪の法術犯罪の主犯として茜に逮捕されることになる……いや、普通に考えれば茜は返り討ちだな。そしたらアタシと日野で処理することになる……どんな被害が出るか分かったもんじゃねー。でも、アメリア。茜にあの爆弾娘を押し付けるとはアタシとしては痛快なことをしてくれたもんだな……感謝してるぜ」
ランの笑いは明らかに日頃『エリート嫌いのやくざ者』を自称しているランの悪党のようなそれだった。
「そうよねえ、茜ちゃんも管理職として自分の手に余る行動をとる部下をどう指導するか……茜ちゃんは9歳の時までの祥子ちゃんしか知らないし、それからのやり取りも話を聞いた範囲では祥子ちゃんは常識的な話しか茜ちゃんにはしていない。確かにあんなハンヴィーに対シュツルム・パンツァー用ミサイルランチャーを乗っけて乗り回していてコートには手りゅう弾や閃光弾を隠しもせずにぶら下げていて、私も見せてもらったけどM134ミニガンを日常的に持ち歩いている時点で普通なら祥子ちゃんは危ないなって気づくはずだけど、平和ボケの東和で育った茜ちゃんには特に気にならないみたいなのよね」
アメリアはそう言って笑顔を浮かべていた。
「M134ミニガンって何です?」
誠はそれとなく隣に立つカウラに尋ねた。
「20世紀にアメリカ軍が開発したガトリング砲だ。6本の銃身を回転させて毎分2000発から6000発の7.62mm弾を発射することが可能だ。重量は20キロだがそれは銃本体の重量でその発射速度から常に2万発以上の弾丸を同時携行する必要がある……アメリア、その伊達は巨大な箱も同時に持ってただろ?」
カウラはそれとなくアメリアに尋ねてみた。
「ああ、あの背中に背負うんだって言ってた箱ね。あの中には弾が入ってたんだ……でも20キロの銃に2万発の7.62mm弾を背負って祥子ちゃん走ったりジャンプしたりするって言ってたわよ……凄いわね」
無邪気に感心して見せるアメリアを見ながら毎分2000発の発射速度で放たれる銃弾を放つ弾を含めればおそらく100キロは超える装備を持ったストーカーに日々狙われるという生活が実は最近誠の知らないところで起きていた事実に驚愕していた。




