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生贄は陛下にその役割をたずねてみます


 今日の生贄のお仕事も、やはり陛下とのティータイム。請われてニンゲンの話をしていたら、陛下が思案深げにうなずいた。

「そうか。姫の国では、婚約して婚約の披露目があり、それから結婚の準備を始め、結婚式そして結婚の披露目があると。」

「おおむね、そんな感じでございます。」


 陛下がやはり思案深げに顔を上げる。

「姫、婚約の披露目がないことが、不安ではなかったか?」

 陛下がそれを気にしてくれるとは思わなった。政略結婚で生贄のニンゲン。だから、そんなものはないのだろうと勝手に思っていた。


「姫、きちんと話しておくべきであったが。皆、知っている。魔国全土に、王が生贄を得て、婚約したと通達してある。生贄が、ニンゲンのメリッサ姫であることも。

 だが、魔族は婚約と同時に共に暮らし始め、それが落ち着いてから結婚式と披露目がある。婚約の披露目というのは、むしろあり得ない。大切な生贄は、誰にも見せたくないのだ。これはニンゲンの姫にはわかりにくい感覚かもしれないが。」

 それでも陛下は説明しようとしてくれた。やはり私には、よくわからなかったけれど。


「姫、やはり婚約の披露目はできない、してはやれない。だが、姫にとっては不満だろうか?」

 陛下がゆっくりと聞いてくれる。

「今、話していただきましたので、不安はなくなりました。不満もございません。

 ただ、結婚式はいつになるのでしょうか?」


 陛下が思案深げに口を開く。

「側近の間で意見が分かれている。明日にでもと言う者もいれば、時間が必要なら一か月後では、ギリギリ譲歩して三か月後ならどうかと、言うものもいる。まあ、最終決定を下すのは俺だが。

 俺は姫に無理強いをしないと言った。それは覚えているか?では、姫の希望は?」


 一見遠回しに見えて、直球な質問だった。

「ニンゲンの、特に王族の婚約期間は一年以上ですので。」

 ひとまず無難にそう答えてみた。陛下が思案深げにうなずいた。

「では間をとって半年。」

「あの、陛下。」

 決定しそうだったので、一応ストップをかけたくなった。

「結婚の準備に、半年では短いのではないかと愚考するのですが。」

「準備はすでにできている。先走った者たちが用意してしまったのだ。

 もちろん姫が願うなら一年かけて、姫の気に入るよう全部やりなおさせよう。」


 ……全部って、まさか本気じゃないわよね?そうに決まってる!

 でも、私は混乱した。私は生贄で。政略結婚の相手で。すでに結婚の準備も万端で。大切にされていて。そう、なぜか大切にされている。

 酷い目になど合ってはいないし、姫として遇され、陛下の大切な者として扱われている。大切な生贄として。


 もう、聞いてしまった方がいいかもしれない。それでも知ってしまうのが怖くて、先延ばしにしてきたことを。いっそ、全部。


「陛下は、生贄の私に何をお望みなのでしょうか。

 私は、生贄として何をすべきなのでしょうか。

 はっきりと教えてはいただけませんか?」


 言った。聞いてしまった……。

 決死の覚悟だったのに、陛下はゆったりと笑みを浮かべただけだった。

「そういえば、言ってはいなかったか。

 俺のそばにいて欲しい。それが俺の望みだ。

 どんな理由であれ、姫が俺との婚姻を了承し、婚約者として魔国に、俺のそばいることが重要なのだ。」


 私は覚悟を決めてさらに聞く。もう、聞いてしまわなければ。

「陛下の魔力が安定するからですか?」

 陛下が嬉しそうに笑みを浮かべる。

「おや、気づいたのか。それは確かだ。

 では、なぜ安定するのか、その点は考察してみたかな?」


 もちろん、それも考えてみた。結論は、この推測しかできなかったけれど。

「相性が良いのかと。」

 陛下がさらに嬉しそうな笑みを浮かべる。

「その通りだよ。」


 魔力を安定させるための生贄、やはりそうかと思った。

 それで私が役に立つなら、それで私に価値があると言ってくれるなら、それもいいのではないかと思う。価値のない私にそれでも、できることがあるならば。


 そんなことを考えていた私に、陛下がさらに問いかけた。

「ではなぜ、相性が良いのだと思う?」

 もちろん、それも考えてはみた。結論は。

「それは、たまたま。」


「違うよ。」

 陛下がはっきりと、そう言った。

「たまたま、ということはあり得ない。」

「それは、どういう意味なのでしょうか?」

「それは、説明が難しいな。ただ、偶然ということはあり得ないのだ。」

 陛下があまりに確信を持って話すから、私はそれ以上問えなくなってしまった。


 だから私は、はっきりと聞くしかない。婚約者が生贄と呼ばれるそのわけを。

「魔国に着いてすぐ塔で行った儀式、それによって陛下と私に、魔力の細いつながりができたように感じます。

 つまり、私は。

 私は陛下の魔力が暴走した時の、陛下の魔力を受け入れる器ですか?たとえそれで私の身が壊れたとしても、魔国が半壊するのを防ぐための生贄ですか?」

 私はその役目を課された者ではないかと考えた。それなら大切にされるわけも、生贄と呼ばれる理由も、説明がつく!


 それなのに、陛下はただ困ったように私を見つめただけだった。

「俺の魔力が暴走する、そんなこともあるかもしれないが。

 姫、前も言ったが、俺の魔力は決して姫を傷つけない。だから、姫の推測はあり得ない。

 それ以前に、姫の身が壊れるようなことを俺は決してしない。他人にさせることもない。

 塔での儀式によって、俺と姫に魔力のつながりを持たせたのは、むしろ姫を守るためだ。」


 ……はずれてしまった。

 なぜ私が生贄なのか、あれこれ考え完璧だと思った推理が、はずれてしまった。


 暴走した魔王の魔力を受け入れる、それは想像しただけで怖かった。けれど、それでも、私にできることがそれなら、そのために私に価値があるといってくれるなら、私の身体が壊れてもそれでいいとすら、思ったのに。

 呆然とする私に、陛下が追い打ちをかける。

 

「さて、俺は姫の質問に答えた。

 姫も、俺の質問に答えてほしい。

 念のため、姫とあの王子の経緯を聞いておきたいのだが、かまわないか?」


 ……実は陛下、生贄に対する拷問でもしたいのかしら、できたてほやほやの超絶黒歴史を話せとは。




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