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生贄がほかの魔族に見つめられるのはNGです


 ”俺の生贄に接するのを解禁する。”

 その通達が為されて以降、陛下が私を伴って城内を歩くようになった。転移魔法ではなく、歩いて。


 陛下は時間になると私の部屋まで迎えに来て、ティータイムの場所まで共に歩く。部屋かと思うほどの広い廊下を進み、大きな階段を昇って降りて、回廊をめぐる。

 その間、陛下は城について教えてくれる。窓や回廊から見える景色についても、教えてくれる。

 そしてティータイムが終われば、また陛下が私を部屋まで送り届ける。


 すると、今まで私の周りには女性ばかりだったけれど、魔族の男性も見かけるようになった。 

 当然ながら皆、翼に、角に、尻尾があり、どういうわけか皆、美形だった。女性も、男性も。そして女性だろうが男性だろうが、陛下が行けば皆、道を開けて頭を下げる。



 その日も、私の仕事は陛下とティータイムだった。けれど時間になって迎えに来たのは、陛下ではなかった。代わりに現れた侍女が説明する。

「陛下はイレギュラーな魔獣討伐のため、少々遅れるとのことでございます。

 今日のティータイムはバルコニーを予定しており、生贄様におかれましては、先にバルコニーで景色を楽しみつつ、陛下の到着を待ってほしいとのことでございます。」

 私は少しがっかりしてしまった。素晴らしい景色は気に入っているけれど、陛下と城内を歩くのも楽しみにしていたから。


 侍女に先導されて、バルコニーのある部屋に向かう。私の後ろにも、いつもと違って侍女が二人ついている。

 そして私一人で歩いていても皆、道を開けて頭を下げてしまった。陛下の威光がわかるというものね。


 階段を上がり、回廊をめぐる。魔族の城は巨大迷路かと思うほど、大きい。誰かに案内されなければ、自室に戻れる自信がまったくない。

 城内ではたまにドワーフを見かけた。妖精族もいるようだった。けれどニンゲンは私だけ。迷子になっても目立つ。迷子になる間もなく、保護という名の捕獲をされるわね、きっと。


 きびきび歩く侍女の後ろについて、角を曲がる。

 すると珍しく一人の魔族が顔を上げて私を見ていた、じっと。若い男性の魔族だった。いきなりニンゲンに出くわして驚いた、とか?

 その魔族が、不意に崩れ落ちた。

 

 何事!?襲撃?暗殺?

 などと思ったのも束の間、突如魔族の王がそこに現れた。相変わらず見事な転移魔法だった。

 そんな超絶高度な魔法を操る魔王が、冷酷に崩れ落ちた魔族を一瞥した。瘴気ホールでも現れたかと思うほどの酷薄さだった。と、お付きの魔族が早々にそれを引きずって行った。


「すまない、驚かせてしまった。」

 振り向いた陛下が私に向けた視線は、いつもと同じだった。冷たさなど欠片もない、春のそよ風のような。

 それが、なぜか冷気を帯びた。

「どうかしたか?まさか、さきほどのアレが姫を不快な目にでもあわせたか?それとも……。」


 瞬く間に冷気が強くなった。陛下の魔力がうねり、その背後に猛吹雪が見えた。もちろん錯覚だけど。

「まさか姫は、赤い翼が好みか?翼の先が丸いのが好みか?それとも、角の巻きがゆるいほうが良いか?まさか、尾は太めが良いのか?」


 ……まさか陛下が、そんな方向に突っ走るとは思わなかった。

 確かに陛下の翼は漆黒だし、翼の先はとがっているし、角の巻きはきゅっとして、尻尾は細めかも。

 けれどね。そもそも私は、魔族の翼の何色が好みとか考えたこともなかったし。魔国に来て、カラフルなのねと驚いたくらいだし。角とか尻尾の良しあしなんて、さっぱり分からないし!


「陛下、今のは転移魔法ですわよね?やはり素晴らしいと思いまして。あの高度な魔法をいとも簡単に操られて。」

 吹雪いていた陛下の魔力が、あっという間に春の陽だまりになった。

「姫に称賛されるのは、嬉しいものだな。」

 陛下の背後に春の花畑が見えた。もちろん錯覚だけど。

 そして錯覚ではないことに、周りの城勤めの方々がハイタッチしていた。侍女の一人が、生贄様グッジョブです!とばかりにサムズアップしている。


 まあ、そうね。確かに今の陛下の魔力はドキドキした。トキメキではなく、命の危険を感じて。

 ここまで魔力を放出した陛下は、久しぶりだった。いつも、ゆったりと穏やかな雰囲気の方だから。

 ということは、陛下にとって魔力を荒ぶらせるほどの何かがあったということ?

 私にはよくわからないけど、それでも伝えてみようかしら。


「陛下。私には、魔族の方々の翼の色についてはよくわかりません。まして翼の形、角や尾については、良いも悪いもさっぱりわかりません。ですが。

 陛下の翼のお色、深みのある黒は光沢もあり素晴らしく、陛下にお似合いです。翼の先がとがっているのも、角の巻きがきゅっとしているのも、陛下に似合って素敵です。尻尾は……。」


 しまった、褒め言葉が尽きてしまった。それなのに、

「尻尾は?」

と、にっこり笑顔の陛下に聞き返されてしまった。

「ええと、鞭のようにしなやかで……。」

 やはりこれ以上は、褒め言葉が苦しい。それなのに、にっこり笑顔の陛下がゆったりと首をかたむけるから。

「ええと、キュートです!」

 その途端、まるで桜吹雪のように花びらが舞った。そんな魔力が私を取り巻いた。

「さあ姫、こちらに。」

 嬉しそうな笑みと共に陛下が私に手を差し出す。

 陛下にエスコートされて歩き出せば、陽だまりの笑顔が私に向けられた。

 ……いや、本当に、あの褒め言葉で良かったの?


 そしてふと気づいた。先ほどのあれって、つまり。

 ……他人の生贄に手を出すな、見つめるのも禁止、みたいな?

 いやいや、まさかね?




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