そして生贄は、魔王と末永く幸せに暮らすんじゃないかと思われます(本編完結)
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。あとは、おまけの小話と番外編数話で完結となります。
今日も陛下とティータイム。魔力をご機嫌に揺らしながら、ベルン様がカップに紅茶を注ぐ。天井からは花びらも降ってくる。
そこに珍しく宰相が入ってきた。途端にベルン様の魔力が床をうねる。宰相は急ぎの用かもしれないけれど、ベルン様はご機嫌斜め。
「俺のサクルィーフィスと二人だけの時間だ、下がれ。」
「おくつろぎのところ誠に申し訳ございませんが、かの妖精族の王より、緊急の要請でございます。」
ベルン様がじっと宰相をねめつける。しかし宰相も負けていない、したたかに見返す。
すごい、さすが魔国の宰相。私は内心拍手を送る。
「陛下、妖精国で瘴気の大量発生がおこり、至急、生贄様の力をお借りしたいとのことでございます。」
なぜかしら、ベルン様以外はやはり生贄と聞こえるのよね。そしてベルン様の魔力は引き続き床をどろどろとうねっていた。
「気が進まぬ。姫とは結婚式の披露目もまだなのだぞ、それを他国に連れていくなど。」
「ですが、魔族の友好的イメージを推進する格好の機会かと。」
「それはわかっている。」
ベルン様の眉間に深いしわがよる。
妖精族の近隣国と言うと、エルフの国か魔国、少し離れてドワーフの国。エルフも魔族も特殊属性持ちは多いけれど、聖属性持ちはあまりいない。妖精族は基本属性と準基本属性持ちがほとんどだけど、特殊属性持ちは少ない。
だからこそ、魔国の王の婚約者が聖属性持ちだと調べてきたのだろうけれど。ただね、それ以前の問題があるのよ。
「ベルン様、宰相にも、まずこれをお話ししなければなりません。
私はニンゲンにしては魔力量もそこそこあります。聖属性も扱えるよう学びました。
ですが、実践をしたことがないのです。浄化をするにしても、誰かサポートをつけていただく必要があります。」
宰相がうやうやしく頭を下げる。
「かしこまりました。生贄様のご要望どおり、早急に手配いたします。ちょうど魔国に、浄化に詳しいニンゲンの冒険者が来ており、生贄様のサポートに最適かと存じます。」
「待て。」
とベルン様の魔力が大蛇のようにうねった。けれど、私に向けられたのは困ったような眼差しだった。
「姫は浄化をしたいのか?」
「魔国のために、私の力が役立つなら。」
ここに来る前、私が考えていた形とは違うけれど。浄化の必要な場所で私の聖属性を使えば、私に価値があると認めてもらえる、そんな形とは違うけれど。
ただ私の力が役立つなら、そのために使いたい。魔国のイメージアップにつながるなら、なおのこと。
そして私の初浄化は、無事に終了した。
そばにベルン様がいたのは当然のこととして、私は頭からベールをかけられ、さらにベルン様から強力な守りの魔法をかけられた。しかも男性とのやりとりは侍女を通してするという、ややこしいことになりながらも無事終了した。
サポートしてくれた冒険者が女性で本当に良かった、普通に会話できたから。妖精族の王からは感謝の言葉もいただて、また一歩魔国のイメージアップにつながったと思う。
そんなイレギュラーなことがありつつも、今日も庭でベルン様とティータイム。帝国風四阿のテーブルには、抹茶と生チョコレートの組み合わせ。
けれど、いつもゆったりな雰囲気をかもしだしているベルン様が、どこかそわそわしていた。その魔力も落ち着かな気に地面をもぞもぞしている。
……もしかして。
「実は、抹茶はお嫌いでしたか?」
「そうではない。ただ、今日こそは姫に言おうと思っていたのだ。」
「まあ、何でしょうか?」
私はちょっとドキドキする。相手がニンゲンでもわかりにくいことはあるというのに、魔族だと余計に想像がつかないのよ。
「姫、貴女をメリッサと呼んでも、良いだろうか?」
「ええ、もちろんですけれども。」
名前で呼ばれるくらい、まったく問題ないけれどと即答すれば。
ベルン様の背後で、大輪の花がいくつも、驚くほどいくつも咲いた。もちろん錯覚だけど。
「メリッサ。」
と、ベルン様が嬉しそうに私の髪に触れる。
そうね、私も聞いてみようかしら。
「ベルン様は、私の髪を触るのがお好きですか?」
ベルン様がゆったりと微笑む。
「魔族であれば、サクルィーフィスの角や翼の先に触れたくなる。
俺の場合は、メリッサのその髪に触れたくてたまらなくなる。」
……今まで、ベルン様はそんなつもりで私の髪に触れていたの、パストゥールの城で会ったときから。何か、恥ずかしいのと嬉しいのが同時にやってきた。
そんな私は今日も、ベルン様の魔力に幾重にも取り巻かれている。私は思い切って、ベルン様の魔力に私の魔力をほんの少し触れさせてみた。
それはすぐにベルン様に気づかれて。ベルン様が微笑んで。
お互いの魔力が触れ合い。少し、からまって。
ベルン様と顔を見合わせて。私は恥ずかしくなって視線をそらしてしまったけれど。
何だか、すごく、幸せだわ。
ベルン様の手が私の髪に触れる。
「サクルィーフィスが他種族であった場合、魔族はひたすら待つのだ。
俺はずっと待っていた。姫の覚悟が決まるのを。
魔族の愛情は、一途で純粋。姫はそれを受け入れる覚悟ができただろうか?」
ベルン様の手が私の頬に触れる。
「メリッサ、俺の愛しいサクルィーフィス。
少しずつでいい、俺の愛情を受け入れてくれるか?」
……やはり魔族は異種族。ニンゲンの私にはよく意味のわからない言葉もある。
でも。
「ベルン様はいつも、その魔力で私を包んでくださっています。
私はそれに慣れてしまいました、嬉しいと思うくらいに。
ずっと、ベルン様のサクルィーフィスでいられたらと思うくらいに。」
花びらが渦のように私たちを取り巻いた。
ベルン様が両手で私の頬を包み込む。
――それは、誓いのような口づけだった。




