生贄は仮面舞踏会に出席します
そんな私の次の試練は、何と仮面舞踏会だった。
「姫、部下どもから、仮面舞踏会を要請されているんだ。俺の生贄である姫もぜひにと。
もちろん、最終決定は俺にあるが。」
ベルン様が再び眉間に深いしわを寄せていた。そして私は、やはりベルン様が悩まれる理由がわからなかった。
「姫、前も話したと思うが。結婚式も結婚の披露目も終わってない状態で、姫を多くの魔族に見せたくないのだ。だが、姫がここまで話題になってしまった以上、姫が俺の生贄であることは知らしめておきたい。だが、本当は誰にも見せたくないのだ。」
やはり、私にはよく分からない理由だった。何であれ、私が陛下の婚約者であることは覆らないと思うのだけど。
まあ、見せたくないというのであれば。
「仮面をしていれば、私の素顔は分からないのではないでしょうか?」
「そういう問題ではない。姫の存在そのものを見せたくないのだ。」
陛下が真面目に丁寧に話してくれる。けれどいくら丁寧に真面目に話してもらっても、よくわからないものは、よくわからなかった。
「ベルン様がそんなに気にされるのならば、舞踏会はしなくてもよろしいのでは?」
そう伝えれば、かえってベルン様の心は決まったようだった。
「舞踏会の間、姫を俺のそばから離すことはできないが、良いか?」
「はい。」
私は大きくうなずく。だって助かるもの。私は舞踏会の経験値も低い。一人で何とかしろと放り出されても、どうしようもない。困るだけだわ。
「姫、踊るのは俺だけにしてほしいが、良いか?」
「はい。」
私はこれも大きくうなずく。だって助かるもの。私は舞踏会で踊る経験値も低い。たくさんの方と踊るなどとてもできそうにない。
あら、ちょっと待って。それ以前にダンスを何とかしなくては。私はダンスそのものの経験値も低いのよ!
「ベルン様、お願いがあります。私とダンスの練習をしていただけないでしょうか。」
陛下の背後で大輪の花が咲いた、ように見えた。もちろん陛下の魔力が見せる錯覚だけど。
陛下のご機嫌な魔力が、ドレスの裾を揺らし、私の髪をゆらす。それに合わせて私の魔力も揺れてしまった。ダンスの練習が楽しみになって。
そして迎えた仮面舞踏会。私はエルフだというコスプレをさせられている。侍女たちの力作である。エルフ風の長衣以外、どのへんがエルフなのかはわからなかったけれど。
そしてベルン様は悪魔のコスプレとのことだった。わざわざそんなことしなくても、素のままで十分じゃないかしら?コスプレする方がベルン様の良さを活かせてない気がするわ。
そして仮面を付けていても皆、私が陛下の生贄だとわかるようだった。まあ、隣にぴったりとベルン様が立っていれば当然かしら。
そして、今ここにきて私の勘違いが判明した。仮面舞踏会ではなく、単なる仮面武闘会だった。
言うなればドレスバトル。いかに優雅にドレスを着こなしながら、戦うか。しかも、帝国風の締め付けのきついドレスで。魔族は淑女も好戦的だった……。
武闘会の司会が盛り上げる。挑戦者の令嬢、受けて立つはこちらの――。などと本当に目の前でバトルを始めてしまった。ちなみに床以外、テーブルやその上に乗っている物、壁を破壊すれば減点だそうで。二人の令嬢はドレスの裾をさばきつつ、まるで舞い踊るように、剣と魔法で優雅に戦っている。
すごい。素晴らしい。お見事!私はベルン様の隣で両者に拍手を送ってしまった。
そして次の戦いの場に呼ばれたのは、何と私だった。
ちょっと、待って。
挑戦者の令嬢たちが私の前にずらりと並ぶ。
まさか、陛下の婚約者である生贄の私が気に入らないヒトたち!?と一瞬だけ思ったものの、彼女たちが私を見る目は興味津々というものだった。生贄様はどんなふうにバトルするの?、と。
私はやはり魔族の中に紛れ込んだ、ニンゲンという名の珍獣ね……。
だからといって。
いや、私にどうしろというの!?
戦闘とか、まったくのド素人なのに。私にできることって、聖属性しかないのに!!
いったい私を何だと思っているの……!!!
何かが吹っ切れた。
にっこり笑って、浄化を発動する。私にできることは、それしかないのだから。
私の最大限の魔力を使って一極集中、強力な金色の浄化の雨を降らせた。
すると、気づけば感嘆の声が上がっていた。
「さすが、魔王陛下の生贄様。素晴らしい攻撃力。」
確かに、床がドロドロになって穴まで空いているけれど。……修繕費用、どのくらいかかるのかしら。傾国の生贄になる気はないのに。
それに、浄化を攻撃魔法として使う気もないのよ、私は。
わたわたしている私に、ドレスの一群が膝を折る。
私はもうここで暮らしていくしかない。ここで生きていくしかない。それを思えば、どんな形でも受け入れてもらえるのはありがたい。
ありがたいけれど、本当に、本当に、これでいいの!?
隣のベルン様が、戸惑う私の髪に触れる。そしてエルフのようにさらりと流した髪をひとふさ手に取り、口づけた。
なぜかしら。私は急に、どうしようもなく、恥ずかしくなってしまった。




