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生贄は話題の人になりつつあります

 

 結局この抹茶というものは、私ではうまく活用できなかった。器に茶杓で抹茶を入れ、お湯を注ぎ、茶筅を使ってはみたものの。完成形態がよく分かっていない私では、どのように、どのくらい茶筅を動かせばいいのか判断できなかった。

 そこで陛下にしっかりと許可を取って、料理人の力を借りることにした。すると、さすが料理人。たぶん完成形態ではないかというもの作り上げてしまった、しかも。

 これは苦みがあるので、甘く濃厚なチョコレートと合わせるのはどうか。冷たくして砂糖を加え、さっぱりとかつほんのり甘い飲み物にしてはどうか。抹茶そのものを焼き菓子の生地に加えてみてはどうか。など次々とアイデアが出てきた。大変素晴らしい。

 

 そんな料理人たちのアイデアを陛下と楽しみつつ、私のほうはといえば。

 早朝に庭を散歩をしませんかとベルン様を誘ってみたり。その翌日には、逆にベルン様から誘われたり。

 ベルン様の政務が早く終わった日は、夏の夕暮れの庭でグリーンティーを楽しんでみたり。

 逆にベルン様の政務が遅かった日は、侍女たちに手伝ってもらい、ほんのり灯る光石をあちこちの木の枝にかけ、小道にも並べ、夜の庭で夕食の時間を共に過ごしてみたり。


 そんな毎日を過ごしていたら、ベルン様と呼ぶのも慣れてしまった。

 ベルン様が私の髪に触れる回数も、なぜか増えていった。

 そして、どういうわけか不思議なことに、私に価値があるとかないとか、そう考えることも少なくなっていった。



 そんなある日、雑誌の取材がやってきた。女官長の説明によれば、

「魔王陛下ご自慢の生贄様専用の庭を密着取材!そんな主旨のインタビューでございます。

 どのように対処いたしましょうか?」

 いったい何なの、それは?そもそも、私が決められるものなの?

「陛下は、どのように仰せかしら?」

「渋っておられます、当然のことですが。

 ただ、生贄様のアイデアは魔国のためになるもの。雑誌を通じて広めたいともお考えのようです。もちろん、生贄様が望まれなければ即断りをと。」

 ええと、意味がわからないわ。陛下は渋っていて、それは当然で、でもアイデアは広めたいと。直接ベルン様とお話しするしかないわね。


 そしてティータイムの時間、ベルン様の眉間には深いしわが寄っていた。

「姫、前も話したと思うが。結婚式も結婚の披露目も終わってない状態で、姫を多くの魔族に見せたくないのだ。だが、姫のアイデアはぜひ魔国に広めたい。」

 陛下の怜悧な美貌に満ちる苦悩……って。いや、わからないわ、どこが悩みどころなのか。


「ベルン様、私の拙いアイデアが魔国のお役に立つかもしれないと、お考えですか?」

 陛下が春の日だまりの笑顔を私に向ける。

「もちろんだ。姫のアイデアは素晴らしい。だが。」

 再び陛下の眉間にしわが寄った。

「姫は俺の生贄だ。その姫が俺のために考えてくれたものを、ほかの魔族に教えるなど……!」

 やはり、わからないわ、そこまで苦悩する理由が。

「ベルン様、魔国のためになるのであれば、私は取材を受けてみたいのですが。」

 深い深いため息をついて、魔族の王は了承した。

「姫がそう願うならば。」

 ……でもね?確かに今までになかったアイデアかもしれないけれど。役に立って広まるかどうかは、また別よ?


 そして陛下の最大の譲歩だということで、私は女性の記者から取材を受けた。ただし、写真は撮らない。代わりに生贄様着用のドレス!と、それだけが写真におさめられた。

 陛下が生贄の私のために造った庭や、アフタヌーンティーのセットに、夜に明かりを灯した庭園なども写真に撮られた。けれどそこに私の姿はなく、陛下のみの姿が写真におさめられた。

 魔族の文化って謎だわ。

 


 そんな取材の一か月後、陛下の庭の記事が大変な話題になっており、生贄様の発案として広まっていると女官長が教えてくれた。

 休日にアフタヌーンティーやナイトティータイムをするのが流行り始めているとか。

 女性同士のシークレットティータイム、秘密のお茶会も行われるようになり、そこで持ち寄った工芸茶を楽しんでいるとか。

 私はそれを他人事のように聞いていた。私のアイデアをきっかけに、さらに文化的趣味が広がるのはきっと良いことに違いないと、うなずきながら。

 

 そんなある日のティータイム、ベルン様がため息をつきながら話し出した。

「アフタヌーンティーも工芸茶も、俺と姫だけのものにしておきたかったのだが。予想していたとはいえ、こんなにも広まってしまった。」

 まあ、こういった流行は移り変わりが早いから。一か月後には別のものが話題になっていると思うけれど。


「陛下、こんな話を女官長から聞きました。私が出したのとは別のアイデアもいろいろ出始めていると。」

 陛下がうなずく。

「今これも流行り始めている。俺もぜひ出席ほしいと、話が来ているんだ。」

「まあ、そうなのですか。」

「男性同士のお茶会なのだが、いかに優雅にお茶を飲みながらバトルできるかというもので、名づけて闘茶。」

 ……いや、それは、激しく違うんじゃないかと。

 陛下が私を安心させるようにうなずく。

「もちろん、野蛮なものではない。文化的な催しだから、戦いながらもいかに優雅にお茶を飲むかというのがポイントだ。」

 たぶん、そうじゃないかと思ったけれど。

 魔族の文化って、やっぱり謎だわ……。

 



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