生贄は陛下と共に庭で過ごすプランを考えてみます
木々に囲まれた小さな庭。小道にそって夏の鮮やかな花が咲き、木陰にはベンチ。小さな噴水が涼やかな音を立て、その奥には四阿。陛下に連れてこられた庭は、帝国風だった。
「貴女は帝国の姫だから、そちら風にしてみた。
ここを姫と歩ければ、俺は満足だ。」
陛下の声から、雰囲気から、本当に満足だと伝わってきてしまった。嬉しそうに微笑も返されて。
なぜかしら。私は、その気持ちに応えたくなってしまった。
「この庭での過ごし方というのは、どんなものがありますか?」
陛下がゆったりと首をかたむける。
「言われてみれば、そこはあまり焦点が当てられていない。」
なるほどね。それなら、私でも何かできるかもしれない。
「では、こんな素敵な庭を造ってくださった陛下と、その、生贄の私で、庭で一緒に過ごすプランを考えてみてもよろしいでしょうか。」
「それは、楽しみにしていよう。」
陛下が笑う。その笑顔に、ただ喜んでいる笑顔に、なぜか私も嬉しくなった。
庭。庭園。ガーデン。この言葉から思いつくことって何だろう。紙にペンを走らせる。
東方では野点というものもあるらしいけれど。
ガーデンアフタヌーンティー、やはりこれよね。帝国の姫である私が提案するならこれだわ。
ほかには……、たとえば早朝の散歩。夕暮れの庭もいい。ええ、帝国では人目を避けてそんな時間に散歩するしかなかったけれど。朝は清々しいし、夕暮れは昼とは違う幻想的な雰囲気が楽しめる。
それなら夜はどうかしら。木の枝とか足元にぽっぽっと明かりを灯して、テーブルにはキャンドルの灯とか。
いずれにしても費用がかかる。文化的な趣味を広めるという理由のために、いくらか予算を使わせてもらうことはできるのかどうか。これはさすがに誰かに確認しないとわからない。
でも、もしも、生贄がそんなことをしなくていいと言われたら。
でも今の私が陛下のためにできることって、これくらい。
私はそれを、してみたいわ。
まず、おそるおそる女官長に聞いてみた。
「私が使ってもいい予算は、あって?」
「では、宰相のほうからお話しさせていただきます。」
やって来た宰相に、再びおそるおそる聞いてみる。
「私が使ってもいい予算は、あって?」
宰相が頭を下げる。
「いくらでも、お使いいただけます。」
……その回答、おかしくない?いくら何でも、おかしくない?私は傾国の生贄になる気はないのよ。
「念のため、何に使いたいか話しますわ。
陛下が用意してくださった庭で、ほかにはないアイデアで、陛下と共に過ごしたいと考えておりますの。」
なぜか、宰相が感激していた。
「それは大変素晴らしゅうございます。いくらでも、お使いいただけます。」
だから私は、傾国の生贄になる気はないというのに。
仕方ない。使い過ぎればどこからかストップがかかるでしょ、たぶん。
私はペンを手にまた考える。
今まで出された食事からして、エルフやドワーフと食文化の感じは近いのよね。素材の味を大切にする素朴な感じ。もちろん実際エルフやドワーフの食事を食べたことはなく、本で読んだだけだけど。
私はそういうの好きだわ。飽きのこない美味しさだもの。
そこに帝国の凝った料理を持ってくる手もあるけれど。私はもう少し違うものがいいと思う。例えばスコーンとか。
侍女たちに聞いてみたところ、庭でのティータイムにお茶とクッキーはありみたいだから。
それを少し豪華にしたアフタヌーンティー。サンドイッチやパイ、サラダなど甘くない料理に、スコーン、そして数種類のケーキ。
この中でスコーンだけは、魔国に似たものがない。だからこそ、帝国の姫としてスコーンを紹介してみたかった。これなら私にできることだから。
それに私、好きなのよね。ほんのり温かいスコーンに、ジャムとクロテッドクリームをたっぷり乗せて。さくりとしたスコーンに、濃厚なクリーム、そしてジャムの甘さ。ええ、ジャムは甘酸っぱいのが良いわ。
帝国から取り寄せる?それとも、料理人を連れてくる?それとも、実物とレシピ本を取り寄せて魔国の料理人に作ってもらう?
どちらにしても、女官長と料理長の協力が必要だわ。
リサーチのため、侍女にも私のアイデアを話してみた。
「きゃー、生贄様、グッジョブです!」
「なんて斬新なアイデア!」
「きっと陛下もお喜びに!」
いや、まあ、それは、お出ししてみないと分からないと思うわ?そして、そこまで斬新でもないわ?
ひとまず感触としては悪くなかったので、女官長に話してみることにする。ドキドキだけれど。
「こんなアイデアを試してみたいのだけど、どうかしら?」
「まったく、全然、少しも、微塵も、問題ございません。すぐに料理長を呼びましょう。」
満面の笑みで女官長が答えた。料理長の都合は大丈夫かしらね?
さて、アイデアとして悪くはなさそうだけれど、料理人が何というかはまた別だわ。ドキドキしながら、料理長に説明すれば。
「なんと、生贄様自ら陛下のためにそのようなご提案を。
料理人の総力をあげて、帝国のスコーンとやらを再現してみせましょう!」
ちょっと、大げさすぎると思うわ?
それに、ほかの誰もが褒めても、陛下にがっかりされてしまったら。
そうなったら、悲しい気がした。とても悲しい気がした。それでも。
私は、何かしてみたかった。私から、何かをしてみたかった。
さて、侍女にも女官長にも料理長にも話してしまったから、陛下にもひとこと話を通しておかないと。ドキドキだけれど。




