第九十九話 エルデネの真実
「黄帝サーラ!待ってくれ。俺たちは戦いたいわけじゃない。少し話をさせてくれ」
俺は大きい声で言った。
サーラは不服そうな顔をする。
「私の処刑を邪魔しておいて、戦いたくない?虫が良すぎると思わないか」
サーラは今にも第二撃を繰り出しそうだ。
落ち着くんだ、俺。
何かあるはずだ。
サーラが響きそうな言葉を探す。
「その処刑の理由は、適切なのか?アーカーシャや——デュランの判断なのか?」
俺の言葉に、サーラが少し眉を動かす。
反応した。
——よし、方向性はこれだ。
「どういう意味だ?」
サーラが俺をじっと見る。
「——市長を処刑するのとは訳が違う。相手は六帝だ。ここには——六賢もいる。この場で判断できる内容なのか?」
決して俺は——ロイスの死を軽んじているわけじゃない。
何よりも重く受け止めている。
だからこそこんな言い方したくなかったが……
権力。意志。
サーラの行動倫理はそこにあると直感が言っていた。
「思い出したぞ。お前たち……ガリアにいた子どもたちか。そこにいるのは……エイナ=ヴィザロッドか。
弁が立つようだな。確かに私の独断で処刑できる対象ではない。だが、アバロンは私の指示——アーカーシャの意志に歯向かった上、攻撃をした」
「指示とはなんだ。アバロンさんが怒った理由があるんじゃないか?」
俺が叫ぶと、サーラは不敵に笑った。
「バドールの開発中止。これ以上のバドールの発展を、アーカーシャは望まない。次の開発先として、パルファムに行けと言っただけだ」
「そんな指示聞けるわけがない!もう少しで……バドールはランクSも見えてるんだ!開発を止めるわけにいくか!」
アバロンが再び激昂する。
「……相変わらず茶帝殿は頭が回らないようだな。開発を続けたとして、ランクSになるわけがないだろう。それを決めるのは、我々なのだから」
「くっ……同じ六帝のくせに……ジェネシスだかなんだか知らねえが、ふざけんな!」
ジェネシス。再び出てきた言葉。
直後。
パシン、という音が響く。
式を出そうとするアバロンの頬を——エイナが引っ叩いた。
唐突なできごとに、アバロンは呆然とする。
「落ち着きなさい。長官。この国は——あなただけのものではないでしょう」
エイナが毅然と言い放つ。
「……もういいか?アバロン以外、消えろ。これ以上邪魔をするならまとめて殺すぞ」
サーラが冷たく言い放つ。
「待て!……エルデネ!何してんだよ!早くこっちにこいよ!」
俺は、サーラの横で無言を貫くエルデネに呼びかける。
が——反応がない。
虚な表情をしている。
「……エルデネ、前の名前か。今、この女は本来の名前を取り戻した。エルダーン。アーカーシャによって創られ、アーカーシャのために産まれたジェネシス。
私と同じだ。記憶は全てリセットしたからな。もうお前らのことなど覚えていない」
サーラの言葉に——場が静まり返る。
「ロッドの監査役として送り込まれたはずなのに、なぜか使命を忘れていたようだな。全て再設定するのは大変だったぞ。今は、優秀な私の部下だ。ちょうどいい。
エルダーン。——まとめて焼き尽くせ」
サーラはそう言うと、エルデネは両手から火球を作り出した。俺たちが知っているそれとは——遥かに大きさが違う。
「——記憶を消したら、本来の力を取り戻したな。今やカラミティアルどころか、セレスティアルだ」
サーラが再び笑みを浮かべる。
記憶が——消された?
エルデネは——俺たちのことを忘れたっていうのか?
俺は、その事実を飲み込めないまま立ち尽くしていた。
「アラタ!作戦通りいくわよ!」
メイが剣を抜く。ラウルも続く。
「作戦……って、あんな式術斬れるわけ……」
「斬るしかないのよ」
俺の言葉をさえぎって、メイが強く言った。
「任せて。——エルデネを、取り返してくる」
その瞳に、迷いはなかった。
俺はその瞳に懐かしさを覚えた。
この目をしている時のメイは——負けたことがない。
大丈夫だ。
信じる。
もとより俺には——それしかできない。
俺は、サーラに向き合った。
——やるしかない。




