第百話 エルデネとの戦い
アラタたちがサーラに向き合う。
頼むわよ、アラタ。
うまくとっ捕まえて人質にでもできれば——デュランとの交渉材料にもなる。
メイは目の前のエルデネを見る。
火球が、とんでもない大きさに膨れ上がっている。
「やばいわね、斬れるかしら」
「メイ。お前はあの火球に集中しろ。俺はエルデネをなんとかする」
ラウルが言った。
いつの間にか、一端の剣士みたいなことを言うようになった。
——が、頼りになる。
「もし私が焼け死んだら、骨は拾ってね」
メイは、らしくもないことを言った。
ラウルは笑った。
「そんときは、一緒に燃えてやるよ」
助けてやる、とか、守ってやるではない。
現実主義者のラウルらしい言葉。
だが、それでも。
メイは体に力が漲るのを感じた。
「あんた、いい男になったわね」
メイは剣を構える。
「俺は元々いい男だぜ」
ラウルが鼻をこすって言った。
目の前の火球が、膨張を止めた。
——来る。
エルデネは無表情にそれを放った。
「——式術斬り!一の太刀!」
メイは声を上げると——火球に向かった。
式術の中心部。
核となるエネルギーを斬れば式術は霧散する。
しかし、少しでもずれれば——消炭だ。
中心部を見極める目。
確実にそれを捉える剣技。
それを実現する身体能力。
全てが噛み合わなければできないと、オラディグは言っていた。
メイと火球が交錯する。
直後。
火球は霧散した。
——できた。
「ラウル!」
メイが叫んだ瞬間、ラウルはすでに動いていた。
式術を放つ瞬間の隙を逃さず——エルデネを羽交締めにした。
「力勝負なら負けねえぞ」
ラウルはエルデネを後ろから捉えている。
——やったか?
エルデネは無表情のままだ。
「エルデネ!思い出せ!」
ラウルが語りかける。
しかし。
エルデネは片手で火球を作り出し——
自分とラウルに向けて放った。
「……!?バカっ!」
ラウルは咄嗟にエルデネから離れるが——火で服が燃えている。
その場で転がり、消火する。
が——、腕に酷い火傷を負っている。
エイナの自動回復が発動する。
エルデネは自分の体に青の式術で水を出し、消火する。
肩から上が火傷しているが——緑の式術で回復する。
「自分ごと焼くなんて……」
ラウルが呟く。
躊躇いがない。
まるで——機械のように仕事を遂行している。
「どうやら、本格的に忘れちゃったみたいね」
メイが額に汗が滲む。嫌な汗。
——味方でいた時あれほど心強かったエルデネ。
敵に回ると——これほどまでに恐ろしいとは。
「接近戦も厳しいとなると——打つ手なしか?」
ラウルはメイの元に戻って言った。
「……消火も、回復もできるのはずるいわね」
そこにエイナが駆けつける。
ラウルの傷を完治させる。
「エイナ。あっちは?」
「アラタが耐え続けてます。先にこちらを片付けましょう。——メイ、何かエルデネの弱点を知りませんか」
「弱点……?って話してるそばから!」
エルデネが第二撃を放つ。
メイが即座に切り替え、かろうじてその火球を斬る。
少し核を外したのか、メイに火球の残りが燃え移る。
エイナが水を放つ。
メイは水浸しになりながら、こちらへ戻る。
「このままじゃ——防戦一方ね。さすがロッド最強の全方位式術者」
メイが呟いた。
「ラウル、エルデネの弱点、思い出せない?あんた、観察力あるでしょ」
ラウルは少し考える。
「……ねえな。少なくとも戦闘においては。強いて言えば——すぐ眠くなるってことくらいか」
ラウルの言葉に、メイが目を開く。
「——それよ。エイナ、あんた、紫の式術使えるわよね」
「中位までなら。まさか……」
「眠らせるわよ、エルデネを」
「……高位式者に眠りの式が効くとは思いませんが」
「一か八かよ。次、私が火球を斬ったら、ラウルがエルデネを拘束。エイナはラウルごとエルデネを眠らせて」
「俺もかよ」
ラウルが不満そうに言った。
「もう、それくらいしか作戦はないわ。
——次、来るわよ」
空に火球が浮かび上がる。
これまでより——更に大きい。
核の見極めが——難しい。
でも、やるしかない。
セブンスロッドでのんきにしているだろう、クソ親父。
もう一回力を貸して。
あんたに教わった一の太刀で——仲間を救えるか、試してあげるから。
メイは、両手を上げ、足を引いた。
「示現流、蜻蛉の構え。——式術斬り!」
ブーストされたメイの体は、肉眼で捉えられないほどの速度になっていた。




