第百一話 サーラとの戦い
「アバロンさん。俺の近くにいてください」
俺はアバロンとキセキの前に出て言った。
「お前の式術か。俺と会った時も使っていたな。
──それは何色の式術だ」
アバロンは言った。
「分かりません。名前は、ガーディアンとつけましたけど。
──また来ます。俺の後ろに」
サーラは再び雷を準備している。
何回見ても──震える。
まるで神の力そのものだ。
後ろを見ると──メイとラウルがエルデネと交戦しているようだ。
──やはり、説得は通用しなかった。
いや、話が通用しなかったのかもしれない。
本当に──記憶をなくしてしまったのか?
雲が一か所に集まる。
サーラの顔に、いらだちを感じる。
「フルグル」
再び、俺たちのもとに雷が落ちる。
そしてそれは──再びガーディアンに弾かれる。
「なんだそれは……私の雷を防ぐなど……あってはならない」
サーラの表情が、変わっていく。
「もう戦いをやめて、話し合わないか!」
俺はサーラに問いかける。
──それが無駄だとしても、殺し合いなど──したくはない。
「無駄だ。死刑執行人としてのプライドを傷つけちまったからな」
アバロンが笑っている。
──死刑にされかけてたのはあんただろ。
「ねえアラタ。このままじゃ防戦一方だ。僕も仕掛けるよ」
キセキが言った。
「分かった。だけど、遠隔攻撃にしろ。俺から離れるな」
「オッケー。アバロンさん、隙を作れたらサーラを拘束できる?」
「馬鹿にするな。仮にも茶の六帝。土を自在に操るなど基本だ」
アバロンはふんぞり返って言った。
「よし。じゃあ僕が隙を作ってみるよ」
キセキが言った。
「ソラリスか?」
破壊力だけなら、今俺たちができる最強の技。
「うん。あれもいいんだけど、僕は〝紫炎〟のほうがやりやすいんだよね。
そっちで行ってみる」
ソラリスは、分離したエネルギーをブーストする技だ。
幼少期から紫と赤が一体化しているキセキからすると──紫炎のほうが体が覚えているのかもしれない。
俺が頷くと、キセキは両手を出した。
「紫炎・ブーメラン」
紫色の炎が、ブーメラン型に変わる。
「お前、ブーメラン得意だっけ」
俺が言うと、キセキは首を振った。
「はじめて。ちょっとやってみたくて」
──命の取り合いをしている最中に──なんという緊張感のないやつだ。
ある意味キセキらしい。
キセキはそれをサーラに向かって投げる。
──案の定、サーラはそれをあっさり交わす。
が、その瞬間、サーラの下の地面が割れる。
──まるで土が触手のように伸び、サーラに絡みつく。
アバロンの式術だ。
よし、これなら──。
そう思った直後。
サーラを包むように、水の塊が浮かぶ。
水が土を溶かし──触手は泥となって地面に落ちた。
青の式術──?
俺はアバロンを見る。
「忘れてた。サーラは全色の式術を使えるんだった」
マジかよ──。
それは──話が違う。
人を消し去る雷だけでなく、全色自在。
攻守ともに変幻自在、かつ一人でできるということだ。
体に少しついた土を払いながら、サーラがゆっくり近づいてくる。
——明らかに怒っている。
だが。
少しふらついたように見えた。
──疲れてきているのか?
いっそのこと、接近戦を──
いや、全色使える以上、うかつには踏み込めない。
──エルデネと戦いが終わるのを待ちたいところだが……
後ろから、ラウルの叫びが聞こえた。
安心はしていられない。
「ブーメランはダメか。次はどんな形にしてみようかな」
キセキは紫炎を色々と形を変えている。
「キセキ、遊んでる場合じゃない。来るぞ──」
四回目のフルグル。
恐らくサーラは──ガーディアンをぶち破る気だ。
矛と盾。力比べ。
上空に集まる雲が、これまでより大きく、そして広い。
──バドールの空は、一気に雷雲に囲まれている。
「あ、そういえば避雷針ってあったよね。あれやってみよう」
キセキは、細長い棒を作り出した。
「紫炎・避雷針!」
叫んで、それを上空に浮かべる。
工作の時間じゃねえんだぞ。
それに避雷針って……。
……ガーディアン発動前に受け流すってことか?
「フルグル!!」
怒りのこもった声と共に──まぶしすぎる閃光が走った。
だが。ガーディアンが発動していない。
——ということは。
「あれ……?なんだこれ」
キセキの避雷針が──とてつもない大きさに膨れ上がっている。
これまでの──数十倍。
「なんか変だな」
キセキが紫炎を見つめた。
「これ、僕の炎じゃない。……雷が、中にいる」
「まさか……フルグルを取り込んだのか?」
俺は呟いた。
「アラタ、これどうしよう」
「……サーラに返せばいいんじゃないか」
「え、う、うん」
キセキはそういうと、膨れ上がった紫炎をサーラの方に向けた。
直後。
とてつもない電流がサーラに向かっていく。
サーラが一瞬目を見開いたのが見えたが──
次の瞬間。
サーラの姿はなかった。
残っていたのは──サーラの影だけだった。




