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ユグラシア冒険記 —幼なじみに連れられて、未知の大陸を冒険することになった件—  作者: ヨダカカツキ
第九章 ランクA国家バドール

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第百二話 戦いの後。そして。

俺たちは——そこに立ち尽くしていた。

先ほどまで、俺たちに雷を撃ち続けたサーラは——そこにはもういなかった。


「……え?なに?」

キセキは、何が起きたか分からずにいる。


俺とキセキの肩を、アバロンが叩いた。


「……お前らのせいじゃない。サーラは……自分の式術で死んだんだ」


「死んだ……?え、嘘でしょ?今ので……」

キセキが、動揺する。


サーラがいたはずの場所に——影がくっきりと残っていた。

俺は、今起きたことを頭では理解していた。

しかし——心が受け付けていなかった。


俺の指示で——キセキが人を殺してしまった。

例えそれが敵だとしても——話し合いで解決できなかったのだろうか。


俺は唇を噛む。


そうだ……エルデネは!?


我に帰り、振り向くと——。


エルデネを背中に背負ったラウルが歩いてくる。


「アラタ!……やったの?」

メイが駆け寄ってくる。


「……ああ。ダメだった。話し合いで解決……できなかった。エルデネは……生きてるのか?」


俺が聞くと、ラウルが笑った。


「ああ。……ぐっすり眠ってるぜ」


眠って……?一体、どんな戦いだったんだ……。


俺たちはエルデネを連れて、近くのダビデタワーへ向かった。マテウスがいるはずだ。


相変わらずマテウスは忙しそうだったが、状況を説明すると入れてくれた。




「エイナ、六賢になったんだな。おめでとう。で、なんでお前らはまだバドールにいるんだ?」

マテウスは煙草に火をつけながら言った。



「ありがとうございます。——道中、黄帝サーラと交戦になりました。長官、説明してください」

エイナの言葉に、アバロンが頭をかいた。


「……いきなり言われたんだ。開発を中止しろってな。これ以上バドールを発展させるな、ってな」


「それを断っただけで、処刑対象になるんですか」

俺は聞いた。


「……アーカーシャの意志に歯向かえば、この帝国ではそうだろうな。だが、納得がいかん。俺はアーカーシャに直接言われたわけじゃない」


俺は、ふとウィザルでの出来事を思い出した。


ウィザルを襲ったギランとバクスター。

ギランも、アーカーシャからの指示を受け、ウィザルの改革に来たと言っていた。一方で——六賢であるレイサスは、何も聞いていないと言っていた。


アーカーシャからの指示。


情報のズレ。


一体——このユグラシアで、何が起こっているのだろうか。


エルデネは念の為拘束した上で、黒の石を体につけてある。

これで式力は無効化できるはずだが——それにしても、よく眠っている。


「黒の石、ヴァザルから持ってきておいてよかったです。

——世界的にも希少ですからね」

エイナが言った。

「それにしても——まだ起きませんね。そもそも私程度の紫の式術が高位者に効くわけないんですが……」



「そいつ、ジェネシスなんだろ?」

マテウスが言った。

「だとしたら——それがジェネシスの特性かもな」


「……どういうことです?何か知ってるんですか?」


俺は聞いた。

マテウスは何の情報を持ってるのだろうか。


「いや。お前らからの情報を元に仮説を立てただけだ。事実を並べると、AIが仮説を出してくれる。——こんな風にな」


マテウスがボタンを押すと、音声が流れ始めた。


『提供された情報に基づき、ジェネシスの特性について推論します。


まず、エルダーンに対して中位の紫式術による睡眠効果が確認されています。通常、高位式術者に対する効果としては不自然です。


また、エルダーンには旅の途中から長時間、あるいは頻繁な睡眠を取る傾向が確認されています。


次に、サーラについてです。

戦闘終盤にふらつきが確認されています。直前まで高出力の式術〝フルグル〟を複数回使用していたことから、式力の著しい消耗が原因である可能性があります。


エルダーンとサーラが共にジェネシスであることを前提とした場合、二つの事象には共通する原因が存在する可能性があります。


現時点で最も可能性が高い仮説は——


ジェネシスは通常の式術者を大きく上回る出力を持つ一方、その出力に比例して式力の消耗も極めて大きい、というものです。


その場合、エルダーンに見られた長時間の睡眠は、消費した式力を回復するための生理的な特性である可能性があります。


ただし、現在の情報のみではジェネシス固有の特性であるとは断定できません。追加の観察、またはアーカーシャが保有するジェネシスの設計情報が必要です』



「これを……機械が、一瞬で?」

俺は呟いた。


シードラの時も驚いたが——AI、人工知能というやつは——まるで人間だ。


「うちのは相当機密情報読み込ませてるから、特殊だがな。どうだ?エイナなら推論組めるんじゃないのか?」

マテウスが言った。


「はい。睡眠は単なる休息ではなく、ジェネシスにとって必要不可欠な回復行動である可能性がありますね」


エイナは顎に指を当てながら言った。


「じゃあ——サーラがふらついてたのも」


俺は、さっきの戦いを思い返す。


フルグルを何度も放ったサーラ。

最後には、それまで見せなかったほど巨大な雷雲を作り出していた。


「同じ理由かもしれません。サーラもまたジェネシスであるなら——短時間でのフルグルの連続使用で限界に近づいていたのかもしれません」


「……だったら」


キセキが、小さな声を出した。


「僕が式術を返さなくても……あの人、もう戦えなかったんじゃないの?」


誰も答えなかった。


——答えられなかった。


「可能性の話だ。あのまま戦ってたら、俺たちが死んでた可能性だってある」


アバロンが言った。


「少なくとも、俺はお前らに命を救われた。お前らがいなかったら、死んでた」


——沈黙が再び訪れる。


そうだとしても。


人を殺した、という事実は消えない。


「キセキ」


俺は口を開いた。


「……なに?」


「サーラに式術を返せって言ったのは俺だ」


俺の指示。


キセキがサーラを殺したのは——俺の責任だ。


「でも、やったのは僕だよ」


「違う。俺が——」


「違わないよ」


キセキは、珍しく俺の言葉を遮った。


「僕がやったんだ。——それは、受け止めなきゃいけない」


——強い目をしている。


後悔でも、悲観でもない、覚悟の目。


あぁ、そうか。


キセキはもうとっくに——子どもじゃなくなってたんだな。


「生き残った奴が、死んだ奴の分まで考え続けるしかねえだろ。正しかったかどうかなんて、分かんねえし」


ラウルが言った。


そうだ。


俺たちはすでに——たくさんの命を背負っている。


敵も。味方も。


受け止め、生きていくしかない。


「……ラウルの言う通りだな。俺たちの、やるべきことをやろう。エルデネの記憶は……取り戻せるのかな」


俺が言うと、マテウスがAIに情報を打ち込む。


回答が一瞬で返ってくる。


『判断できません。ジェネシスの記憶操作に関する情報が不足しています』


「俺のところじゃ無理みたいだな」


マテウスが言った。


「じゃあ誰に聞けば……」


「そうだな。作った奴に聞けば分かるんじゃないか?」


マテウスは煙草を灰皿に押しつけた。


「——アーカーシャにな」


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