第百三話 アーカーシャの入り口
「土と赤は相性がいい。俺が見張っていれば何とかなるだろう」
アバロンが言った。
「もう俺もアーカーシャからお尋ね者扱いされてるかもしれん。指示を破った上──査定官も死んでるからな」
「それは、僕が……」
キセキが言いかけると、アバロンは首を振った。
「——違う。あれは、俺たちみんなでやったことだ。お前が一人で背負うもんじゃない。むしろ、こうなったのは俺が原因だ。知ってるか?大人ってのはな。責任を取るためにいるんだぜ」
アバロンが言った。
「——長官の口からそんな言葉が聞けるとは思いませんでした。いつも現場に文句ばっかり言ってるのに」
エイナが言った。
「お前は相変わらず一言余計だな。俺もそうやって、大人に助けられてきたんだよ」
エルデネは黒の石で無力化され拘束されているものの、記憶を失った状態のエルデネがどんな動きをするか分からない。
誰かが見張っていた方がいい、ということで、アバロンとマテウスが名乗り出てくれた。
「ダビデタワーなら機密性も高い。しばらく生活できる施設もあるしな」
マテウスが言った。
「俺もお尋ね者になるかもしれないが——乗り掛かった船だ。お前らのぶっ飛んだゴールまで付き合ってやるよ」
煙草の煙を大きく吐く。
「もし、アーカーシャに会ったら、何で開発を止めさせたいのか聞いてきてくれ」
アバロンが言った。
俺たちは二人と——エルダーンとなってしまったエルデネに別れを告げ、ダビデタワーを出た。
「アーカーシャには……どうやって行くんだ?」
俺はエイナに聞いた。
「私も、当然初めてです。長官の話によると、六帝、六賢にはゲートの位置が知らされるとのことですが」
エイナは端末を見ながら言った。
「あ、メッセージが届いてますね。──行ってみましょう」
俺たちはエイナについていった。
バドールの中心部、ダビデタワーから近く。
エレベーターに乗り込んで、地下に向かう。
俺たちを乗せた箱は、ぐんぐんと下へ進んでいく。
どこまで行くんだろうか。
エレベーターが止まると、そこは。
駅だった。
正確には──駅のような場所だ。
俺たちが知っている、蒸気機関車の駅と雰囲気が似ている。
だが、そこに停まっているのは蒸気機関車ではなく。
無機質な真っ白い箱だった。
車輪が、ない。
「──リニアですね。磁力で浮かせて走る列車です」
蒸気機関の次の、電気の列車。
更にその先の技術──ということか。
俺から見ると、ただの箱にしか見えない。
ゲートで、音声が流れる。
『チップを検知しました。認証開始します。──エイナ=ウィザロッド。
科学の六賢。認証完了しました。乗車してください』
ゲートが開くと同時に、白い箱のドアが開いた。
中はそんなに広くない。
──そもそも六帝、六賢勢ぞろいでも十二人。
それ以上が乗れる設計になっていないのだろう。
俺たちは、エイナと一緒にゲートをくぐった。
チップがないと──本当に認証されないようだ。
俺たちが乗り込むとドアが閉まり、〝リニア〟と呼ばれる列車は発進した。
──音がしない。静かだ。
俺は、アルカディアの蒸気機関の激しい音を思い出す。
汽笛の音、車輪とレールがこすれる音。
辺りが蒸気に包まれるあの景色とは──まったく違う。
「これ、本当に走ってるのか?」
俺はエイナに聞いた。
「最大時速は八百キロメートルみたいですよ」
──八百?
自動運転のエアカーの……倍以上の速さだ。
「蒸気機関車の二十倍じゃん」
キセキが呟く。
もはや想像もつかない。
仕組みもまったく分からない。
俺たちが向かっているのは、そんな科学の中枢だということを改めて感じさせられた。




