第九十八話 黄帝サーラ
「待ってください。何か話してます。あれは——長官?」
エイナが言った。
エルデネ、サーラと話しているのは——アバロンだった。
「なんでサーラと一緒にいるんだ……それに、アバロンさんも」
俺は一瞬、胸に黒い予感がよぎった。
この旅で様々な人に助けられてきた。
裏切られたことなど、一度もなかった。
だが——もしも。
あの三人が裏で繋がっていたとしたら。
いや。
俺は頭を振る。
そんなこと——あるわけがない。
「静かにして。多分、私なら聞き取れる」
メイが意識を集中させる。
——そんなことできるのかよ。
もはや、メイは人間の野生を極限まで研ぎ澄ませた状態なんだろう。
ある意味式術も科学も超越している。
俺たちは、気配を殺した。
状況が掴めない今は、メイの聴力に頼るしかない。
少し経つと、メイが話し始めた。
「どうやら、開発の進め方についてアバロンさんがサーラに詰められているみたい。アバロンさんは少し怒っている。エルデネは——何も話してない」
「詰められている——?だとしたら、まずいんじゃないか」
俺は、苦い記憶——だけど忘れちゃいけない記憶を呼び戻す。
ロイスを断罪し、一瞬で影にしたあの式術。
忌まわしき言葉。
——フルグル。
もしアバロンが同じように断罪されるとしたら——俺はそれを見過ごすわけにはいかない。
「みんな、行こう」
俺は、迷いを断ち切って行った。
それを聞くと、エイナが止める。
「待ってください。——ここで使うとは思いませんでしたが……ザラミ様から教わった式術を使います」
そういうと、意識を集中させる。
エイナから、緑の波動が両手から伸びていく。
片方は俺たちと——片方は街の木々と繋がった。
「これで、しばらくは自動回復状態になります。とはいえ——黄帝の前では気休めにしかなりません。
基本は——アラタのガーディアン頼みです」
俺は頷く。
そして、皆にブースターをかけた。
「できれば交戦は避けよう。エルデネの確保、サーラの捕縛が理想だ。難しそうだけどな。
——エルデネの方は、メイとラウル、頼めるか?」
「分かったわ。エルデネがどういうつもりか分からないけど、もし攻撃してきたら、式術を斬るわ。
その上で——意識を刈り取るように頑張るわ」
難しい戦いなのは分かっているが——エルデネをよく知り、説得できるのもまた、メイな気がする。
俺とキセキは——黄帝と対峙しなければいけない。
「私は戦況に応じて動きます。かなり厳しい戦いになりそうですね。アラタ、できれば説得を」
エイナが言った。
「そのつもりだ。けど、厳しそうだな——あの様子じゃ」
目の前で、激昂したアバロンが何かを叫びながら土の式術を発動している。
「……あの単細胞!」
エイナがとんでもない悪口を言いながら飛び出す。
俺たちもそれに続く。
サーラとエルデネは、難なくアバロンの攻撃をかわしている。——やはり、手強い。
俺たちはアバロンの後ろに回った。
エイナがアバロンに近づき、叫ぶ。
「街中でなにやってるんですか!あなたの作った街でしょう!」
アバロンの攻撃で、街の道は破壊されている。
「エイナ。——小僧たちも。何しにきた。これは、六帝同士の話し合いだ」
アバロンは、俺たちの存在を無視するように第二撃を準備する。
「アバロンさん!待ってください!」
俺の声に、アバロンは攻撃を止める。
「あの赤い髪は——俺たちの仲間なんです」
「なに……?そんなバカな。あいつは——ジェネシスだと言っていたぞ」
「ジェネシス——?なんですかそれは」
「アーカーシャによって創られた——デザインド・ヒューマンだ。遺伝子操作で生み出された——言わばアーカーシャの意志そのものだ」
——なん……だって?
エルデネが……アーカーシャの意志?
「そんなはずは……あいつは、エルデネは俺たちと一緒にロッドから来たんです」
俺はアバロンに詰め寄る。しかし。
「アラタ。話してる時間はないようだぜ。あちらさんは——やる気だ」
サーラが、手をかざしている。
来る。
あの技が。
「査定官への式術での攻撃。反逆とみなす。罪人は、処刑する——」
分厚い雲が一点に集まり——まるで神の裁きかの如く、俺たちの頭上が暗くなる。
「みんな!俺の近くに!」
俺は叫ぶ。耐えられるか?いや——耐えなければ、跡形もなく消え去るだけだ。影となって。
ディミニッシュ——式術の効果を薄める技は、使えそうにない。あの雷の速度を捉えられる気がしない。
つまり——ガーディアン頼み。
頼むぜ、俺の神様?
上空から、一筋の光が俺たちに向かう。
直後。
ガーディアンが発動し——雷は弾かれた。
電流が、地面に流れ、煙が立つ。
「……なに?フルグルが……弾かれた?おい。邪魔をするな。私が処刑すべきは、アバロンだけだ」
サーラが言った。
——俺たちのことなんて、覚えてもいないってわけか。
こっちは忘れようがないってのに。
俺は、怒りを抑え、口を開いた。
今するべきことは、怒りに身を任せることじゃない。
全力で——話をすることだ。
父さん、頼む。
ちょっと俺に乗り移って力を貸してくれ。




