第九十七話 邂逅
「あんな感じで終わってよかったの?」
地上に戻ると、メイが言った。
「どう言う意味だよ」
俺は答える。
「もっと、色々聞いた方がよかったんじゃないの。デュランの弱点とか。あのおじいちゃん、アーカーシャに近い人なんでしょ」
メイの言う通りである。
しかし。
「なんだか、平和に暮らしているあの人に……戦いの話をするのは違う気がしたんだ」
俺は言った。
「多分、これまでいっぱい苦労してる。握手した時に思った」
「なんか、僕は本当のおじいちゃんみたいに感じたよ」
キセキが言った。
確かに、コウも言っていた通り、少し雰囲気がキセキに似ていた。タツオ叔父さんが歳を取ったらあんな感じになりそうだ。
「エイナは——本当に六賢になったのか?」
ラウルがエイナに聞いた。
「随分あっさりしてる気がするが」
エイナは、端末で調べる。
「はい。帝国人事情報にも、六賢、科学領域 エイナ=ヴィザロッドと書かれています。……あ、ザラミ様から電話ですね」
エイナは端末のボタンを押す。
ザラミの声が流れる。
『ちょっと、あんたどういうことよ。緑の十八将から、六賢になるなんて聞いたことないわよ』
「ザラミ様。これはまあ、成り行きで。私自身あまり実感は湧いていません」
『責任持って次の十八将……いや、緑帝候補の子を見つけなさいよ。そして一、二年で緑帝にしなさい。じゃないと更に私の婚期が遅れるじゃない』
メチャクチャである。
仕事に誇りを持っているザラミをカッコいいと思った時間を返していただきたい。
「そういえば。お父様——ガラム王に会いましたよ」
『げ。リターニアに行くとは聞いていたけど。会ったのね。——ファイスには無事会えたの?』
「はい。あまり重要な情報は得られませんでしたが。
それより、たまにはリターニアに顔を出すようにとことづかっています」
『え?父さんから?とっくに私のことなんて忘れてると思ってたけど』
「婚活に苦戦しているから、なんとかするようにお願いしておきました」
『……余計なことを。エイナ、会ったら覚えておきなさいよ。で、本当にデュランと戦うつもりなの?』
「アイネさんを返してくれればそうはならないんですが。まぁ、そうなりそうですね」
『気をつけなさいよ。マルティアで私が教えた式術は練習してるの?』
「はい。まだ実戦では使ってないですが」
『ちゃんと使いなさいよ。あ、ごめん。今やりとりしてる男から電話来ちゃった。なんかあったら連絡しなさいよ!じゃあね』
ザラミがそう言って電話は切れた。
相変わらず——元気そうだ。
彼女が仲間になってくれたら心強いとも思う一方、仕事に婚活に、忙しそうだ。
無理やり巻き込むわけにも行くまい。
「いよいよ、アーカーシャのど真ん中に殴り込みかぁ」
ラウルが呟いた。
そう。
この後は——ついに帝国の主国、アーカーシャに向かう。
帝国の全て——いや、世界の全てをコントロールする、アーカーシャ。それが人の名前なのか、組織の名前なのかまだ分からない。
ユグラシアで数々聞いた、アーカーシャの意志。
それを確かめに——そして、アイネを救いに。
旅の終着点は近い。
「ねぇ、近くにいるわよ」
メイが不意に構えて、足を止める。
「何がだよ」
俺はメイの背中にぶつかる。
「——式術者。それも、かなりの高位」
「なんでそんなの分かるんだよ」
「式術斬りを会得する過程で、身についたのよ。
ヤバいわ。——これは、相当よ。
その式術者が——二人」
なんだそれは。
そんな探知能力なのをいつのまに身につけたんだよ。
ふと見ると——ラウルが震えている。
「ちょっと、距離を取って観察しよう。
——俺たちが斬れるレベルじゃないかもしれない」
嫌な予感と共に、俺たちは気配の方向へ近づいていく。
建物の角から、気配を察しながらメイがそちらを覗く。
途端——メイが目を見開く。
「うそ……なんで、一緒に……?」
俺は、メイの横からそちらを見る。
すると、そこには。
俺たちの探していた人——エルデネがいた。
だが、その横には。
ロイスを一瞬で葬った女。
黄帝、サーラが立っていた。




