第九十四話 六賢マテウス
到着したのは、並び立つ摩天楼の中心部だった。
ひときわ高い建物が、そびえ立っている。
地上──ではなく、建物の途中階にある、庭園のような場所に着陸した。
見上げても、建物の最上階は見えない。
……一体どこまで続いているんだ。
「ダビデタワー。この国で一番高い建物だ。こっちは官僚用の入り口だ。ここからなら直接マテウスに繋げられる」
アバロンが言った。
建物の入り口に着くと、アバロンが機械に向かって顔を向ける。
「アバロン=グレア。国土開発長官。認識しました。ご用件をどうぞ」
女性の声が響く。──端末の音声と似ている気がする。
「マテウスに用事がある。入れてくれ」
アバロンの声に、少し間があって返事がある。
「確認しました。アポイントが未登録です。マテウス様は作業中のため、対応できません」
アバロンは舌打ちをした。
「……AI対応は事務的すぎて腹が立つな。緊急の用事だと伝えろ」
また少し間が空く。
「マテウス様に確認しました。要件を言えとのことです」
回答を聞いて、アバロンが更にいら立つ。
「アーカーシャに入りたがっているやつらを連れてきたと伝えろ」
再び、確認の時間。
「確認しました。入れとのことです」
音声とともに、ドアが開いた。
「……AIもマテウスもめんどくせえなあ。俺はもういいか?」
アバロンは言った。
「ダメですよ。私たちは面識がないんですから。ついてきてください」
エイナが答える。
遠慮もなければ、有無も言わさない。
ある意味、こいつも六帝より上な気がするな……。
不満そうな顔をしながら、アバロンは俺たちを先導した。
建物の中に入ると、いくつも扉が並んでいる。
「あ、エレベーターだね」
キセキが言った。
シードラでも見かけた、昇降機。
段々俺たちもこっちの世界の科学に慣れてきている。
しかし──便利な機械だ。
あっという間に箱は大きく上昇する。
気圧の変化で、耳が痛くなる。
高低差、どれだけあるんだ。
チン、という音が鳴りあっという間に到着する。
表示階は、百八階となっている。
……ひゃくはち?
アルカディアで一番高い建物でも、十階くらいだ。
文字通り、桁が違う。
エレベーターから直結の部屋に入ると、広い部屋に大量の機械が並んでいた。
あれは──コンピュータというやつだろう。エイナが言っていた。
それらを見比べながら、指を動かしまくっている男がいた。
──あれが、マテウスか。
なんか、イメージと違う。
華奢な研究者をイメージしていたが……。
日焼けした、端正な顔立ち。
年齢は──三十代くらいか。
こっちの人間の年齢はよく分からないけど。
俺たちが近づくと、マテウスは手を止めた。
「そいつらか。次の自殺志願者は」
マテウスは言った。
「おいおい。アーカーシャに入りたいってだけだ」
アバロンは答える。
「同じようなもんだろう」
マテウスは煙草に火をつけた。
「で、何で行きたいんだ?」
「その前に──タガロについて聞かせてもらえませんか?」
俺は聞いた。
「腕を斬って──アーカーシャに向かったと」
「あの自殺志願者の知り合いか?あいつは相当ぶっ飛んでたなあ」
そう言うと、マテウスは笑い始めた。
「まさか、腕を斬るとはな。いかれてるぜ」
「──見てたんですか?……腕を斬るところを」
「いや。俺はチップの場所を予測してやっただけだ。
腕を斬ったのは、俺が紹介した闇医者だ」
「予測……?特定ではなく?」
「チップが出している微弱な電波から、おおむねの位置を教えてやっただけだ。
アーカーシャにバレたら俺は職を失うがな」
「なぜそんな危険を冒して協力したんですか?」
エイナが聞いた。
「俺はな。ぶっ飛んだやつが好きなんだ。何か一つの信念を持ったやつとかな。
あいつは──タガロは中でも相当だったな」
思い出したように、マテウスは笑った。
「一体、何を言ったんですか」
「アーカーシャの思想を、仕組みをぶっ壊す。協力しろ、と。——あろうことか、六賢の俺にだ」
六賢。そして情報技術を担うマテウス。
おそらく──アーカーシャの中枢に近い人物だ。
そのマテウスに対して、ありのままの思想をぶつけたということか。
「マテウス様は──アーカーシャへの忠誠はないのですか?」
エイナが聞いた。
「ないね。あんたもそうだろ?アバロン」
マテウスはアバロンに話を振った。
「会ったこともないやつに忠誠を誓えるか。与えられた仕事は好きだがな」
アバロンは答える。
「——会ったこともない?六帝でさえ?」
エイナが目を丸くする。
「話しは何度もしている。バドールの開発方針や、次の開発都市の選定でな。直接は顔を見せない。声だけだ」
アバロンが言うと、マテウスが頷く。
きっと、同じような対応なのだろう。
「それじゃあ──主国アーカーシャに入ったとしても……私たちは会えないということですか」
「その点は俺もタガロに伝えた。──が、どうしても行きたいと言うから協力してやったまでだ」
マテウスが答えた。
「六帝や六賢はアーカーシャの指示で動いていると思っていました」
エイナが言った。
確かに。青帝プルークや紫帝ファイス。
緑帝のザラミも、結局アーカーシャの意志に従って動いている。
赤帝ガゼリアという例外はいるが、六賢も含め、アーカーシャの意志に従っていると思っていた。
「指示に従うことと、忠誠は違うさ。利用価値は感じてる。だが、全部言いなりになるわけじゃない」
マテウスは二本目の煙草に火をつけて、続けた。
「実質、この国の情報技術は俺、街づくりはアバロンで分担してやっているからな」
マテウスが言った。
「じゃあ、この国の科学はマテウスさんが作ったの?」
キセキが聞いた。
「いや。俺はIT専門だ。科学の土台は、コウって呼ばれている爺さんが作った。
もう引退したがな」
マテウスが答える。
まだ別の人がいるのか。
要するにバドールと言う国は、三人の天才たちが得意分野を発揮して出来上がった都市ということだ。
確かに、アーカーシャの力を借りることもないのかもしれない。
「マテウス様は──アーカーシャが崩壊しても良いと?」
「そうは言っていない。だが、仮に崩壊したとしてもバドールは崩壊しない。
完全に仕組みを作り上げているからな。
世界の仕組みをぶっ壊そうとするような──イカれたやつが好きだってだけだ」
そういうマテウスも、十分ぶっ飛んでいるように見える。
つまり──その方向性で話を進めれば、協力してもらえる可能性は高い。
この人を動かすには——ぶっ飛んでればいい。
俺は、頭の中でシナリオを組み立てた。




