第九十三話 タガロの覚悟
「私は嫌ですよ。腕を切るなんて」
エイナは言った。
そりゃそうだ。
それよりも——果たしてどうやってチップの場所を特定したか、だ。
「チップの入ってる場所は分からないんじゃ?」
俺は聞いた。
「そのはずだ。俺も知らん。今は機能停止してるが、どこかには入ってるはずだが」
アバロンは答えた。
「一体——タガロはどうやって場所を特定したんでしょうね」
エイナが腕を組んだ。
「場所を特定できないと、腕を切るなんてできないよな。
いや、特定できていても——相当の覚悟がないとな」
俺は呟く。
正直——常軌を逸している。
アーカーシャに入るために、腕を切る。
目的は、アーカーシャの仕組みを壊すため。
考えられない。
そこまで——タガロは六帝の制度を呪っていたのだろうか。
「俺がその話を聞いたのは、マテウスからだ。直接聞いてみろ」
アバロンが言った。
「マテウス——六賢マテウス様ですか?世界一のエンジニアと呼ばれている」
エイナが聞いた。
エンジニア?どんな仕事だ?
「そうだ。今はダビデにいる。テクノロジーの権威だからな。大体の情報はあいつのところに入ってくる。お前らが来ているのも把握しているかもな」
「長官、繋いでください」
エイナが言った。
「いやだね。俺はここで開発の続きをやる」
アバロンは子どもみたいに言った。
「……通報しますよ?職を失ってもいいんですか?」
エイナの脅しに、アバロンはため息をついた。
「分かったよ。マテウスのところまで連れてってやる。しかし、あいつも変人だぞ。仕事中だとまともに話にならんぞ」
俺たちは、エアカーでダビデ——あの摩天楼の都市へ向かうことになった。
アバロンの車に、ぴったり着いていく。
街に近づくにつれ、エアカーの数が格段に増える。
目の前や横を、車が飛び交っていく。
「これ、ぶつかったりしないの?」
キセキが聞いた。
「自動制御してますから。そのあたりのシステムを使ってるのも、マテウス様と聞いています」
エイナが答えた。
……どんな仕組みだよ。
俺には想像もつかない。
「端末のなんだっけ、AIみたいのが入ってるってこと?」
キセキが言った。
エイナが目を丸くする。
「その通りです。キセキ、あなたは理解力が高いんですね」
「なるほどー。だから人の操縦がいらないのか」
キセキは納得している。
俺にはさっぱりだ。
「ねえ、何あれ」
メイが空中を指差す。
空の真ん中で——人が音楽をやっている。
え?人が浮いてる?
「ホログラフのアバターですね。最近流行りのバンドです。バドールでは、映像よりホログラフが主流に変わりましたね」
……エイナの説明が、さっぱり分からない。
後で教えてもらおう。
しかし、すごい世界だ。
俺たちの知ってる科学なんて——もはや比較にもならない。
キセキは、すっかり慣れたエイナの端末で色々調べている。
この科学力を支える人物——六賢マテウスとは、どんな人なんだろうか。




