第九十話 バドールでドライブ。
外を、広大な砂漠の景色が流れていく。
どこまで行っても。砂。
ロッドでは見たことのない風景。
それが、ものすごい速度で流れていく。
「なぁエイナ」
俺は聞いた。
「何でしょう」
エイナはお菓子を食べながら答えた。
「この車、速くないか?」
前の車は、アルカディアの蒸気機関車とそんなに速度は変わらなかった気がする。
この車は——比較にならないほど、速い。
「時速二百キロ出てますからね。運転もないので楽です」
エイナは、ハンドルを握っていない。
いや——ハンドルそのものがない。
車は、砂漠の上空をものすごい速度で突き進んでいく。
「せっかく運転楽しくなってきたのに」
キセキが後部座席で不満気に言った。
「端末から目的地を設定すれば、あとは自動運転ですからね。少し味気ない気もしますが」
エイナが言った。
「いや、それもそうなんだけど……空を飛ぶってどういうことだよ」
「自動運転。自動制御。バドールでは全ての車が実装されているので、事故も渋滞もないそうです。さすが、Aランク国家です」
この旅で、世界の広さを痛感する。
俺たちの常識は完全に覆された。
タツオ叔父さんが開発中の自動車はとっくにできていて、なんなら空を飛ぶところまで進化している。
式術も六帝とかいう怪物たちがウヨウヨいるし。
俺は、座席に背中を預けて目を閉じた。
どうせ、バドールに着いたらもっと驚く科学があるに違いない。
「ねぇねぇエイナ。バドールに行ったらさ、タイムマシンとかあるの?」
キセキが言った。
「タイムマシン?何ですかそれは?」
「時間を移動できる機械。父さんは理論的には実証済みとか言ってたけど」
「時間の移動……?実証済み?自動車もない国の科学で?」
エイナは一人でぶつぶつ考え始めた。
「少なくとも、バドールにはないと思います。民間利用という観点では、ですが。国家で開発している可能性はありますが。しかし、そんなことができたら……歴史はどうなってしまうんでしょうね」
「なんか、別の世界になるから大丈夫みたいなこと言ってたよ。並行世界?よく分かんないけどね」
キセキも、タツオ叔父さんから聞いただけの夢物語だ。
でも、うちの父さんもたまに変なこと言ってたな。
「昔はスマホで何でも出来たんだけどな」とか。
昔の方が良かった、は大人のくちぐせだと思って聞き流していたが……
そういえば、スマホってなんだろう。
車はどんどん突き進む。
砂漠を進んで行くと、少しずつすれ違い車が増えた。
全部、空を飛んでいる。
前を見ると、陽炎の向こうに、巨大なビル群が見えた。
あれが——バドール。
「もうすぐ、首都ダビデです。が、まずは開発特区に向かいます」
エイナが言った。
「誰かに会うのか?」
「茶帝、アバロン。この国の実質トップであり——国土開発庁の長官です」
エイナの元上司。デンガランから聞いた名前だ。
怒っていると言っていたが……
大丈夫なのか?
いずれにしても。
これで、アーカーシャ帝国の六帝、全てが出揃った。




