第八十九話 バドールと、帝国の科学力と。
「デンガラン。私たちはバドールに向かいますが、一緒に行きませんか」
エイナが淡々と言った。
再び船でユグラシア大陸に戻った。
出発地のゴーストタウン。
キセキとラウルは、ヤンセンと船旅について話している。
メイは剣を振っている。ある意味いつも通り。
デンガランは、憔悴しきった顔で答えた。
「行くわけないだろう。……心身ともに疲れた。次の開発都市が決まるまで休む」
エイナが流したあの音声については、俺たちは特に触れなかった。いや、触れられなかった。
メイですら黙っていた。
一番その手の話に食いつきそうなのに。
まあ……いじるにしても、不憫すぎる。
あんな恥ずかしい過去を曝け出されたら、俺なら発狂する。
その上で、バドールに一緒に行かないかと平然と誘うエイナ。
……相当にぶっ飛んでるな。
「分かっていると思うが──アバロン長官は相当怒っていたから、気をつけろよ」
デンガランはエイナに言った。
「え?なぜ?辞めるって電話で伝えた上で、書類は国土開発庁に送りましたよ。手続き上は問題ないはずです」
「……義理人情の人だぞ?電話で済ませるなんてありえねえって言ってたぞ」
デンガランが言うと、エイナは指を顎に当てた。
「ふむ。それは厄介ですね。バドールについたら、長官に頼ろうと思っていましたから」
「……お前、すごいな。仕事辞めてすぐ、元上司に頼れる神経が羨ましいよ」
デンガランは呆れた顔をしている。
「まあ、いずれにしてもバドールまでは長い。みんな、達者でな」
デンガランは、そう言って手を振った。
俺は、ゆっくり休むように心から祈りながら、手を振った。
「さて、また五人に戻りましたね」
エイナが言った。
途中参加とは思えないくらいパーティを仕切っている。
いや、助かってはいるんだけど。
「バドールに向かうんだろ?またあの車で行くのか?」
俺は、港に止めたワゴン車を見た。
「いえ。バドールにたどり着くには、途中、何百キロも続く砂漠があります。あの車では無理です」
エイナが答える。
「じゃあどうすんだよ。まさか馬車か?」
「いえ。それでは時間がかかりすぎます。もう少し進めば、バドール国の玄関都市があります。そこで移動手段を調達しましょう」
「まさか、今度は砂漠で走れる車とか?」
俺は笑って言った。
もう、何が出てきても驚かない。
「いえ。走りません。飛びます」
「は?飛ぶって……どこを?」
「空をです。エアカー。空飛ぶ車です」
……は?空を飛ぶ?
車ですら卒倒しそうなほど驚いたのに。
今度は空を飛ぶ車。
俺は、祖国、科学大国アルカディアの議長を不憫に思った。
父さん、俺たちの国は、ユグラシアではランクCだぜ。




