第八十八話 ガラムの娘と、デンガランの黒歴史と。
俺たちが扉の外へ出ると、みんなが待っていた。
「何か分かりましたか」
エイナが俺に聞いた。
「ごめん。肝心なことは何も分からなかった」
俺は小さい声で言った。
「分かったことを教えてください」
「アイネは無事だ。エルデネはバドールにいる。あとは──リターニアは、アーカーシャの意志で分断されている。それくらいかな」
「分断が、アーカーシャの意志?」
エイナが言った。
「一体何のために……」
分断。プルークは、潮流を使って、ユグラシア大陸とロッド大陸を物理的に
分断していた。
そして、ファイスはリターニア大陸を精神的に分断している。
そこに──アーカーシャのどんな意志があるのだろうか。
「デュランの弱点とか、アーカーシャの目的とかは──全然答えてくれなかった。変な感じだった。敵なのか、味方なのかも分からない」
俺は、感じたことをそのまま伝えた。
「……ガラムさん。もう一度入ることはできないんですか?」
俺の質問に、ガラムが答える。
「ファイスに会えるのは、年に一度と決まっている。来年までは会えない」
……とても待てる時間ではない。
「いずれにしても」
エイナが言った。
「すべての答えはアーカーシャにあります」
俺は頷く。
「デュランは、アーカーシャの意志に忠実に動いているだけだと言っていた。
つまり──アイネの件も、アーカーシャの意志だ。行こう。アーカーシャへ」
俺たちは階段を昇り、王宮内へ戻った。
「──君たちは、帝国と戦うつもりなのか?」
ガラムは言った。
「アイネを取り戻せないなら──そうなるかもしれません」
俺は答える。
「そうか。私も、ファイスから奇妙なことを言われた」
ガラムが言った。
俺たちがファイスと話している間、ガラムは別の空間にいたはずだ。
同時に話していた?
そんなことができるのだろうか。
「これから、世界がどうなるかは、もしかすると君たちにかかっているかもしれない、とな」
「世界が……俺たちに?どういうことでしょう」
俺は聞き返した。
「詳しいことはアーカーシャ次第、と言われたよ。残念ながら、さっぱり分からん。とにもかくにも──国の恩人たちの、無事を祈ろう」
優しい笑みを浮かべる。
やはり、その面影に見覚えがある。
「あの、ガラムさん、もしかして」
俺が聞いた。
「──娘さんとかいます?」
「そういえば、いたような気もするな。十年以上前、国のことをさんざん悪く言って出ていったじゃじゃ馬娘が」
「名前はもしかして……」
「ザラミ=リターニア。今はアーカーシャで六帝なんぞをやっているようだが──いい加減国に戻さないといけない。面識があるのか?」
面識も何も。
つい最近お会いしましたよ。
「あの人お姫様だったのかよ……」
俺は一人で呟いた。
やはり、そうだったか。
顔がそこまで似ているわけではないが──ふと見せる表情がそっくりだ。
エイナがガラムの前に出る。
「ガラム王。高位式者のイケメン、二十五歳から四十歳を用意してください。そうすれば戻ってくる可能性はあります」
エイナが言った。
「もはやあの人の動機はそれしかありません」
ガラム王は笑った。
「相変わらず夢みたいなこと言ってるのか。この国にはろくな男がいないと言って出ていって──結局相手が見つかっていないのか」
「残念ながら。本人は婚期を逃したとぼやいていますが、まだ間に合います。
素材そのものは悪くありません」
エイナは失礼なことをズバズバ言っている。
「たまには顔を出すように伝えてくれ。アーカーシャと違って、リターニアには科学がないからな。そちらでは──電話というものがあるのだろう?」
文明が断絶しているとはいえ、情報は知っているのか。
そのあたりは、俺たちロッド組とは違うんだな。
「かしこまりました。私の方でも相手探しをしておきます。
まあ、この世に存在するかも怪しいですが」
エイナは言った。
「ガラム王。大変お世話になりました。今度は──密航でなくお邪魔します」
「英雄たちの来訪はいつでも歓迎だ。──門まで送ろう」
ガラムは再び笑顔で言った。
ガラムと、ウォラフ率いる騎兵団に送られ、俺たちは馬車で出発した。
海を渡り、ユグラシア大陸に戻ったら。
いよいよアーカーシャへ向かう。
目的地は、アーカーシャの隣国、バドール。
エルデネに追いつけるのだろうか。
「エイナ。ユグラシアに戻ったら、俺は解放されるということでいいんだな」
馬車を操舵しながら、デンガランが言った。
「約束ですからね」
エイナは言ったが、少し口惜しそうだ。
「デンガランさん、一体どんな弱みを握られてるんですか」
俺は聞いた。
「……それは言えない。それだけは絶対に」
デンガランは沈黙した。
すると、エイナが端末を操作した。
端末から──デンガランの声が流れる。
『初めて見たときから、俺は君を好きになってしまった。
俺の人生の国土開発を手伝ってくれないか?』
『まず、あなたの頭の中を開発したほうがいいと思いますよ』
続いて、エイナの声。
馬車の中に、沈黙が流れる。
「あ、消そうと思ったら再生しちゃいました」
エイナが呟く。
「うおおおぉぉ!!やめろ!やめてくれ!」
デンガランが、操舵していた馬車から飛び降り地面を転がっている。
……これは。
デンガランがエイナに愛の告白をした音声だろうか。
そして察するに。
玉砕したということだろう。
……恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
これが、デンガランが握られていた弱みということか。
地面を転がりまわるデンガランを気の毒に思いながら、
端末を何食わぬ顔で操作するエイナを——心底恐ろしいと思った。




