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ユグラシア冒険記 —幼なじみに連れられて、未知の大陸を冒険することになった件—  作者: ヨダカカツキ
第二章 冒険のはじまり

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第九話 邂逅と、真実の入口と。

「移動手段は徒歩だけになっちゃったねえ」


エルデネが言った。


そう。昨日の熊の襲来の結果、馬は二頭だけになってしまった。

全員乗ることはできない以上、残す役割は──食糧だ。


昨晩、メイとエルデネ、そしてラウルは手際よく残った動物を解体していった。

塩漬けにして、持っていくという。


「本当は干し肉にしたいけどね。とりあえず、数日は持つでしょ」


血だらけになった手でエルデネはそう言った。


俺とキセキにできるのは──目を背けないように作業の手伝いをするだけだった。

本当は、見ているのさえ辛かった。


生き物が、目の前で絶命し解体されていく。


そんな光景は、見たことがなかった。


旅慣れているラウルはまだしも──

なんでメイは平気なんだろうか。



空から、温かい太陽が照り付ける。

景色からは、少しずつ雪が消えていた。


南下するにつれ、寒さも和らいできている気がする。


「雪原を抜けたら、見渡す限り草原だねえ。そろそろ人がいてもおかしくなさそうだ」

エルデネが言った。


朝からずっと歩き通しだ。

──正直、そろそろ休みたい。


「あ、あれ」

その時、キセキが遠くを指さした。


一同、そちらを見る。


遠く、草原の中央。

そこには──逆光の中、黒い人影が二つ、見えた。

──馬に乗っているようだ。


「人に見えるね。行ってみよう」

エルデネはそちらに向かって走り出した。


……速い。


一体、どんな体力しているんだ。

驚くべきは、それについていくメイとラウルだ。

俺とキセキはどんどん引き離されていく。


……同年代では足は速い方なんだけど。


やっとのことで追いつくころには、もうエルデネは先ほどの人影と対峙していた。


顔を上げるとそこには、一人の中年の男性と──少女がいた。


俺は、思わず喉を鳴らした。


少女は──驚くほど美しかった。


それが、アイネとその父、テムルとの出会いだった。



「やっほー。はじめまして。言葉、分かる?」

エルデネは、相変わらず慎重さのかけらもない。


案の定、二人とも警戒心を丸出しにしている。

頭まで被ったフードが、余計にそれを感じさせる。


「何者だ。アーカーシャの使いか」


中年の男が言った。

髭が生えているせいで年齢が分からないが──意外と若いのかもしれない。

声に張りがある。


「あっ、よかった。言葉通じるみたいだね。

アーカーシャって何?私たちは、向こうの大陸から来たんだよ」


エルデネがそういうと、男と少女は目を見合わせた。


「……向こうの大陸?この大陸以外──文明は滅びたはずじゃないのか」


大きな海を隔てた大陸同士の出会いは、それがはじまりだった。


「え?こっちではそう思われているの?」


「……アーカーシャの民はそう言っている」


「できれば、どっかで話聞きたいんだけど、このあたりに住んでるの?」


エルデネはぐいぐい話を進めていく。

これが斥候としての技術なのか、エルデネだからなのかはよく分からない。


「……私たちはユルガン族。少数民族だ。この草原を移動しながら生活している。定住地はない」


「えー、なにそれ!楽しそう!」

エルデネの横から、メイが目を輝かせる。


驚いた少女は──中年の男の後ろに隠れた。


「アイネ。大丈夫だ。アーカーシャではなさそうだ」


男は、少女に言った。


この娘──アイネ、という名前なのか。

黒い髪。黒い瞳。

──アルカディアでも、テオロッドでも見たことがない。


俺は、少しの間ぼうっとしてしまっていた。


「少し旅で疲れたんですが、休ませてもらえないでしょうか」

言ったのは──キセキだ。


しっかりとした口調で依頼をしている。


「……ああ。構わない。旅人は丁重にもてなすのが──ユルガン族の流儀だ。

付いてきなさい」


キセキは、俺の方を見て親指を立てた。


……やるな。こいつ。


俺は今のところ──なんの役にも立っていない。


俺は、それでもこりずに少女に見とれながら後ろを付いていった。


そこから、数十分歩いただろうか。


集落──と呼ぶには小さい、円形の建物が並ぶ場所にたどり着いた。


建物の中に案内されると、そこは意外と広かった。


男に促され、俺たちは絨毯の上に座った。


「私はテムル。ユルガン族の族長をしている。

といっても、今や百人くらいしかいないがな」


「私はエルデネ。よろしく」


エルデネは自己紹介すると手を差し出した。

握手の合図だ。


その文化がこちらで通じるかは分からないが──テムルは握り返した。

握手の文化はこちらにもあるようだ。


「まずは旅の疲れを癒すといい。アイネ」


テムルがそういうと、先ほどの少女──アイネがお茶を俺たちに配ってくれた。


俺に手渡す時、少しだけアイネの指が俺の手に触れ──ドキリとする。


アイネが煎れてくれたお茶は、温かく──ほんの少し甘い味がした。

旅疲れの体に染みわたるようだった。


「アーカーシャの使いではないということだが──本当に別の大陸から来たのか?」


テムルは、俺たちの前に座りながら言った。


「そう。私たちは、ロッド大陸って呼んでいる。そこにあるテオロッドっていう国から、皆でやってきた。この大陸は?なんて名前なの?」


「私たちはそんな規模で物事を捉えないが……アーカーシャの民はユグラシア大陸、と呼んでいる」


「ユグラシア大陸。なんかかっこいいわね」

メイが呟いた。


「そうかあ?長くねえか。俺はロッド大陸の方が好きだぜ」

ラウルが言った。


「少なくともナギラよりはかっこいいわよ」


「おい、てめえ」


……またメイとラウルの小競り合いがはじまったようだ。



「そのアーカーシャというのは、国の名前ですか?」

キセキが聞いた。


こいつ、すごいな。大人の会話にどんどん参加していく。


「……そうだ。本当に何も知らないのだな。

アーカーシャは、このユグラシア大陸の覇者。帝国だ。

大陸の国土のほとんどは、アーカーシャ帝国のものだ」


「ユルガン族は違うんですよね?」

負けじと、俺も参加した。


「このあたりの少数民族はまだ残っているが──時間の問題かもしれん」


「どういうことですか?」


「毎月のように、交渉にやってくる。アーカーシャの帝国に入れ、とな。

交渉と言う名の──半ば脅しだ」


「脅し……?」


「アーカーシャは──大国だ。ユグラシア全土を支配していると聞く。力で攻め込まれたら──私たちでは太刀打ちできない」


大陸全土を支配する国——?

かつて──オルディアが目指したという世界だ。


文明が滅んだと言われていた大陸に、人が住んでいただけなく──


大帝国が、存在していた。


俺は、唾を飲み込んだ。


この冒険──ただじゃ終わらない気がする。

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