第八話 襲来と、肉祭りと。
俺が目を覚ますと──周りの皆も起きていた。
それくらい嘶きだった。
「なんだ……今の」
俺が呟くと、メイと目が合った。
だが、メイは答えるより早く、剣を抜いて走り出した。
「メイ!」
俺たちはメイの後に続いて、洞窟の入り口に向かった。
するとそこには──繋いでおいた馬にかじりつく──大きな熊の姿があった。
「タイドイーターに似てるけど……違うね」
エルデネが言った。
熊は人影に気が付くと──こちらに向かって走り出した。
マズい。
メイが熊の眼前に立ち、直後。
跳躍した。
──高い。
剣で熊の肩口を斬りつける。
熊は叫び声を上げる。
「アラタ!キセキ!ラウル!中に隠れて。私とエルデネで──倒す」
熊は激高し、こちらに向かってくる。
俺はキセキを連れて中に入った。
俺には──何もできない。
エルデネが火球を作っているのが見えた。
メイが熊に応戦し、時間稼ぎをしている。
ほどなくして──エルデネの準備が整ったようだ。
「ごめんねえ。動物たちも一緒に燃やしちゃうと思うけど」
そう言いながら、火球が放たれた。
炎は動物たちを巻き込み燃え上がった。
──悲鳴を上げながら、燃え上がる熊、馬、牛。
その光景は──決して気持ちのいいものではなかった。
俺は、思わず目を背けた。
燃え盛る炎が消えると──残ったのはほとんど消し炭となった死骸だった。
「ありゃー。火力押さえたんだけどね。ほとんど燃えちゃったか。
……熊はさすが頑丈だ、まだ肉が残ってそうだね」
エルデネは、動物たちの死骸の中を歩きながら言った。
「よし、みんな、食べられそうな部分集めるよー。肉祭りだ」
マジかよ……あの後に、食べるっていうのか?
洞窟の中で、残った肉を集めた食事が始まった。
エルデネの炎で、残ったのは馬が二頭、牛が一頭だけだった。
メイは、羊の肉を食べながら泣いている。
「ピーちゃん……私の中で生きてね」
一体、どういう精神状態だよ。
よく見ると……肩から血が出ている。
「メイ、それ……」
俺が言うと、肉をかじりながらメイは言った。
「ああ、これ。熊にやられたみたい。まあ、かすり傷っしょ」
……くっきりと爪の跡が三本残っている。
「……いや、傷残っちゃうだろ、そのままじゃ」
「あら、優しいのね。アラタ、治してくれる?」
「……できるわけないだろ。知ってるくせに」
──母さんがいれば。
これくらいの傷、一瞬で治せるのに。
俺には残念ながら、その力はない。
弟と妹には──受け継がれているのに。
「ん?怪我したの?ちょい見せて」
エルデネは、骨付き肉──馬の脚だろうか──を食べながらメイに近寄った。
するとそのまま、手から緑の波動を出した。
みるみるうちにメイの傷が塞がっていく。
「え……エルデネ、緑の式術使えるのか」
俺は言った。
「うん。もちろん、イエナには敵わないけどね。
他の色も、一通り全部できるよ。研究所で測ったら、全部二式以上だった」
……なんだそれは。
万能の式者と呼ばれているサイレス叔父さんでも、そこまでじゃなかったはずだ。
赤が零式。他のすべてが二式以上。
そんな人間がいるのだろうか。
「君たちを連れて旅するんだから、
ヒーラーはいないと話にならないでしょ。
私がいれば一人六役できるから、便利でしょ」
エルデネは自慢そうに言った。
──知れば知るほど、謎の増える女だ。
「魔獣、やっぱりいたね」
キセキは、牛の肉を少しずつ食べながら言った。
「──人もどこかに住んでいるのかな」
「その可能性はたかいとおもふひょ」
メイが言った。
口に物を入れながら話すな。
「──ごめんごめん。一気にいれすぎた。
さっき、あの熊は私たちを見てすぐに襲ってきた。
つまり」
「人を食糧として認識してたね」
エルデネが補足した。
ということは。
「この大陸に人間がいて──それを食べたことがあるっていうこと?」
俺は聞いた。
とすると、今食べている熊の肉は──人間の肉を食べた熊ということか。
急に、気分が悪くなった。
「恐らく。人里も近いかもしれない。明日、周辺を散策してみよう」
エルデネは、骨にかぶりつきながら言った。
横を見ると、ラウルも平然と色々な肉を物色している。
──よく食べられるな、みんな。
俺は、雪を沸かした水を飲んで、気分を落ち着かせた。




