第七話 エルデネの式術と、俺たちの髪色と。
「エルデネ、今更の質問なんだけど」
俺は聞いた。
「なに、アラタ」
エルデネがこちらを振り向く。
馬が三頭、ゆっくりと歩く。
牛や羊を引き連れての旅は、そうせざるを得ない。
俺はエルデネの後ろ、キセキはメイの後ろに乗っている。
ラウルは慣れた手つきで、馬を操りながら動物たちを引いている。
相当、色んな経験を積んでいるんだろう。
──俺と一つしか変わらないのに。
「もし魔獣とか出てきたらどうすんだ?」
俺は気になっていたことを聞いた。
ロッド大陸での魔獣被害は、相当減っている。
だが、ここは未知の大陸。
大型魔獣が襲ってくる可能性だって、十分にある。
「私が剣でぶっ倒すわよ」
メイが、鼻息を荒くする。
「いや、剣でどうにもならない魔獣もいるだろ……」
俺が言うと、エルデネが答えた。
「まあ、そしたら私が燃やすよ」
「……燃やす?」
「そう。一応、赤の零式だからね」
エルデネはそういうと手のひらから火球を出し──空に放った。
火球は空へ舞うと着弾点を見いだせず──空中で破裂した。
「……なんだ…これ」
俺は、はじめて零式と言われる式術を見た。
今見た炎は──完全に災害だ。
もしその炎が人に向けられたとしたら。
考えるだけで恐ろしい。
「きれいだねえ」
キセキはのんきに呟いた。
「君たちも式術、使えるでしょ?いざというときはよろしくね」
エルデネは手綱を引きながら言った。
式術──。俺は、自分の髪を無意識に触った。
俺の髪は、橙色だ。
父さんは──白の式術者。
本来この世界には存在しない色、と聞いたことがある。
だけど父さんが式術を使ったところは、見たことがない。
母さんは、緑の式術者。
俺が転んでけがをしたとき、すぐに直してくれたことを覚えている。
でも、世界でも有数の式術者だということを聞いたのは、最近だ。
白と緑の息子に生まれた俺は──なぜか橙の髪に生まれた。
弟のミライは緑、妹のユフィアは白と緑の二色。
小さい頃、俺は本当の子どもじゃないんじゃないかと思ったことがある。
でもそれは、式術研究所所長──サイレス叔父さんに怒られた。
「お前は、間違いなくユイトとイエナの子だ。生まれてからずっと二人がお前を愛してきたのをみたんだ。間違いない。だが──その色については分からんな」
式術を研究し続けたサイレス叔父さんでさえ、何も分からないという。
「そもそも白自体が良く分かってないからな。未知の色が出てきても不思議はない
測定した感じだと能力増幅系な感じだが……色々と試してみるしかないな」
ある意味、匙を投げられた形だ。
要するに、何の役に立つか分からない式術者というわけだ。
俺は、横の馬に乗るキセキを見た。
キセキの髪は──赤紫と言うのが正しいのだろうか。
父親の赤と母親の紫が、きれいに混ざった色。
牡丹色、と花に詳しいルナさん──サイレス叔父さんの奥さんは言っていた。
キセキは幼少期から、紫の炎を出していた。
普通の炎ではなく、紫色に燃え上がった炎。
式術研究所で分析をすると、その炎は通常のものとは異なっていた。
父親であるタツオ叔父さんもそうだったようだが──その制御に苦労したと聞いたことがある。
ミサキ叔母さんとキセキは一か月テオロッドの式術研究所に泊まり込み、なんとか制御に成功したが──それ以降、基本式術は使っていないだろう。
いずれにしても、俺もキセキも名ばかりの式術者で、戦闘には役に立つイメージがあまりない。
ラウルは様々な経験を積んでいると思うが、髪の色──灰色を見る限り、無式者だろう。
現状、戦闘要員になりうるのはエルデネと、メイの剣技だけだ。
──もちろん、魔獣なんて杞憂に終われば一番いいのだが。
ゆっくりとしたペースで雪原を南下していくが、一向に生き物の気配はない。
──本当に文明は滅んでしまったのだろうか。
しかしこれだけの大自然の中、生き物が存在しないなんてことはあるのだろうか。
この際、魔獣でもいいから出てきて欲しい。
でないと、苦労してこの大陸までやってきた意味がなくなってしまう。
結局、その日は生き物に出会うことなく日が沈んだ。
俺たちは、手ごろな洞窟を見つけてそこで野営をすることになった。
「うん、だいじょーぶ。魔獣はいなそう」
見回りに行ったエルデネが帰ってくる。
動物たちには外で待ってもらい、俺たちは洞窟の中に入った。
真ん中に枯れ木を並べ、エルデネが火をつける。
暗い空間に、暖かい火が灯る。
旅の疲れが、どっと出てくる。
本当に疲れが溜まっていると、場所なんて関係ないんだな。
俺は気が付くと眠りに落ちていた。
目を覚ましたのは、洞窟の外から聞こえてくる、馬の嘶く声だった。




