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ユグラシア冒険記 —幼なじみに連れられて、未知の大陸を冒険することになった件—  作者: ヨダカカツキ
第一章 旅立ちの時

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第六話 カムイ国と、冒険の始まりと。

「雪が……積もっている」


目の前に広がった景色に、思わず俺は呟いた。


カムイの港。

ナギラを出発し数日で到着したそこは、一面の雪景色だった。


「寒すぎでしょ」

かなりの厚着をしながらも、両手で体を抱えて震えているのは、メイだ。

なんか、文句ばかりだなこいつ。


「すごいね。アルカディアではここまでならないもんね」

キセキがあたりを見渡している。


アルカディアも、雪が降ることはある。

だが──こんな一面を覆いつくすほど積もったことはない。


「王に話はつけてあるから。必要物資受け取ったら行くよー」

エルデネが言った。


一体、何者なんだこの女は。


俺たちは、港の近くにある迎賓館に向かった。

王都は港から離れているようだが、国賓を迎えるように建てられたらしい。


そして、なんとウポロ=カムイ国王がわざわざ来ているとのこと。

……なんと贅沢な扱いなんだろうか。


雪景色の中、ひときわ豪勢な建物に入ると、盛大な出迎えが待っていた。


「ようこそ、エルデネさん。そして、各国の王子、王女たち。

こんな辺境の国へわざわざありがとうございます」


丁寧な挨拶で出迎えてくれたのは──ウポロ=カムイ国王、その人だった。


しかし、王子、王女って。


そんな呼ばれ方──人生でされたことがない。


「やっほー。ウポロ。元気?相変わらず寒いねえ」


「お久しぶりです。エルデネさん。しかし、大陸に行くなんて、相変わらず大胆なことを」


「っていうかカムイからの方が近いんだから行けばいいじゃん」


「……文明もない土地にですか?今、世界は急速に発展しています。

各国、発展に合わせた政策変更や法整備にてんてこまいで、それどころじゃないですよ」


そう答えたウポロは、十代に見える。

俺たちとそう年齢が変わらなそうだ。


「まあ、中へ入って温かいお茶でも飲んでください。こちらへ」


俺たちを丁寧に接客するその姿は、立派な大人そのものだ。



「アラタさん、ユイトさんはお元気ですか?

アルカディアには大変お世話になっておりますので」


お茶を飲みながら、ウポロは俺に向かって言った。


「まあ……はい。忙しそうにはしています」


アルカディアとカムイは、主に魚介類の貿易で深い付き合いがあると聞いたことがある。

きっかけは父さんと先代の王──シャイン=カムイとの交流らしいが、詳しいことは知らない。


それに、父さんがどんな仕事をしているかなんて、俺が知っているわけがない。


「タツオさんの科学のおかげで、大分カムイも発展しました。そちらも合わせて、感謝をお伝えください」


今度はキセキに向かって言った。

キセキも同じように、なんのこっちゃという顔をしている。


親が普段どんな仕事をしていて、世界にどんな影響を与えているかなんて考えたこともなかったが──こうして一国の主が謝意を示している以上、それなりの影響力があるのだろうか。


まあ、俺には関係ないのだが。


「叔父さんたち、頑張ってるのね。うちの馬鹿親父も見習ってほしいわ」

メイがため息をつく。


「カイさんやテリーズさんには、何度か剣技指導で来ていただいておりますよ。

皆様のご両親は、世界のために色々と貢献されてらっしゃいます」

ウポロが答えた。


「……また剣技ね。まあ、少しでも役に立っているならいいわ」


俺は、カイ叔父さんを不憫に思った。

昔は、メイもパパ、パパと懐いていた記憶がある。

いつの間にこんなに父親嫌いになっていたのか。


──まあ、俺も人のことを言えた義理じゃないが。


「ウポロ、補給が終わったら私たちは出るから。いろいろあんがとね」

エルデネは煙草に火をつけた。


……ここ、吸っていいのかよ。

ウポロは少し渋い顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。


「ゆっくりなさってくださいよ。急ぐ旅でもないんでしょう?」


「いや、さっさと行って帰ってこないと、テリーズに私が斬られるらしい」

エルデネは真顔で言った。


「……冗談ですよね?」


「いや、本気っぽかった」


エルデネが答える。

ウポロは俺たちの方を見る。


一同、頷く。


「……相変わらず怖いお方だ。分かりました。では、速やかに補給を終わらせるように指示を出します。それまで、カムイ名物の食事でも」


客間に、豪勢な海鮮類が運ばれてくる。


中々お目にかかれない、カニまである。

俺はよだれが溢れてくるのを感じる。


しかし、キセキは浮かない顔をしている。


「どうした、キセキ」


「僕、海鮮食べられない」


……良かった、ちゃんとまだキセキは子どもだった。


その晩はカムイに宿泊し、盛大な見送りの中俺たちは大陸に向けて出発した。


「わくわくするねえ。もう少しで、前人未到の大陸に到着だ」


甲板で落ち着かない様子にしているのは、エルデネだった。

元は言えば、エルデネのルーツを探しに行く、という名目だった。


彼女がどこから来て、どこへ向かうのか。


エルデネが珍しく落ち着かないのも、無理もないのかもしれない。


親たちからのエーテルリンクは、あれからはなかった。

恐らく、テリーズ叔母さんが説得してくれたのだろう。


だが、そんなに長く旅するわけにはいかない。


俺は、帰った後の母さんのことを想像しかけて──やめた。


「ねえ、この動物たちはなんで連れてきたの」


キセキが船に増えた仲間たちを見ながら言った。


馬、牛、羊。


総勢十頭くらいの動物が、船に乗っている。

カムイで連れてきた動物たちだ。


「大陸がどんな状態か分からないからね。この子たちは、まあ、食糧だね」

エルデネがあっさりと言った。


そりゃあ、まあ、そういう目的なのは分かっていたが。

数日間とはいえ世話をしていると愛着も湧く。


そんな簡単に割り切れるものでもない。


「名前とか付けてねえだろうな。情が湧くからな」

ラウルが補足する。

──数々の海を旅してきた男だ。

恐らく、同様の経験があるのだろう。


「ピーちゃん……」


メイが、羊に頬ずりしている。


……手遅れだったか。


「おい、見えたぞ。──大陸だ。

まだ見ぬ世界へ到着だ」


ラルフが、少し上ずった声で言った。


霧の向こうに──大きな地平線が見える。


「ただいまー!!」


エルデネは、甲板に立ち、大きく手を振っている。


──自分が生まれた場所を知らずに育つのは、どんな感じなんだろうか。

アルカディアで生まれ、アルカディアで育った俺には想像もつかない。


船は、浜辺に到着する。


──ここから先は何が待ち受けているか分からない。


「近くに手ごろな隠し場所がないか、探してくる。

この船が生命線だからな」


ラルフは俺たちと動物を下ろし、再び船を動かした。


たどり着いた浜辺は──雪が積もっていた。

カムイより更に気温が下がっているように感じる。


「エルデネが生まれたのは……こんな寒いところなのか」

俺は体を震わせながら言った。


「たぶん、もっと南だと思うよ。こっから、馬に乗って南に行ってみよう。

──人が住んでいるかもしれない」


辺りには、人どころか生き物の気配を感じない。


波が、浜辺の雪を溶かす音が聞こえるだけだ。


ほどなくして、ラウルが戻ってくる。


「いい感じの洞窟があったぜ。そこに錨泊しておいた。盗賊でも来ない限り大丈夫だ」


五人と動物たち。


異国からやってきた俺たちは、この大陸から見れば〝フォーリナー〟だ。


これから始まる冒険に、少し俺の胸は高鳴った。


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