第五話 夜の船と、煙草の煙と。
「……本当にこんなところで寝るの?板じゃない」
メイが文句をぶつぶつ言っている。
「育ちがいいんだなお嬢ちゃん。寝室がついているだけでまともな船だぜ?」
ラウルが言った。
船の地下にあった寝室は、メイの言う通りただの板の間だった。
申し訳程度に布は敷かれているが──背中は痛そうだ。
「大陸着いたら野宿とかもあるから、マシなほうだよー。そのうち慣れるよ」
エルデネが言った。
……そりゃそうか。
宿がある旅行ではなく──これは未知の大陸への冒険だ。
少し、舐めていたようだ。
覚悟を決めなければならない。
「とはいえ、俺も寝ないで操縦ってわけにはいかない。お前らにも操縦教えておかなきゃな」
ラウルがこちらをちらっと見る。
「あ、僕やりたい」
キセキが手を挙げた。
「おっ。キセキだっけか。お前、興味あるのか?」
「父さんが設計した船に興味がある。どうやって動かすのか、どうやったら速く動くのか」
「よし。じゃあ、海を極めし俺様が船について叩き込んでやるぜ。来な」
ラウルとキセキは上へ上がっていた。
メイは、文句を言いながら横になっている。
「枕もないじゃない……どうやって寝ろって言うのよ」
……言い出しっぺのくせに、文句の多い女だ。
「これから北上するから、どんどん寒くなるよー。毛布巻いときな」
エルデネが言った。
「大陸って、北にあるの?」
俺は聞いた。
「一足飛びにはいかないよ。一旦、カムイ国に立ち寄って、物資補給してから大陸に向かう。極寒の国だよー」
「エルデネはカムイに行ったことあるのか?」
「むかしね。その時は──敵としてだけどね。
ロッド大陸は全部回ったかなあ」
敵として。
あっさりと言いづらいことを言う。
その昔、オルディア──敵国の斥候として動き回っていたと聞いた。
「カムイの王様って、確か……若いんじゃなかったっけ」
「そう。シャイン=カムイが退任して、甥のウポロ=シャインが現国王」
「なんで退任したの?」
「スクエアに婿入りしたって。王の座も富も捨てて、たった一人愛する人のもとへ。ロマンだねえ」
エルデネは呟きながら煙草に火をつけた。
俺には──理解できない。
なんでわざわざ立場を捨てて、異国に行く必要があるんだろうか。
「……エルデネも恋とかしたことあるのか?」
俺はつい、エルデネに聞いた。
エルデネは少し考えて言った。
「うーん。分かんない。一瞬、タツオを好きかもと思ったけど、勘違いみたいだったし。ユイトは頼れるやつって感じだしなあ。気が付いたら、四十歳をすぎちゃったなあ」
──二十代にしか見えない横顔が、少し寂しそうに煙を吐いた。
気が付くと、メイはすやすや寝息を立てている。
まったく、のんきな奴だ。
上からは、ラウルがあーだこーだ指示を出している声が聞こえる。
カムイまでの旅程は長い。
……俺も寝るか。
俺は、メイと少しだけ距離を空けて、横になった。
この女の寝相の悪さは、折り紙付きだ。




