第八十六話 王宮と、ファイスと。
騎士たちは、手際よくドラゴンを解体していく。
硬いウロコに苦戦をしていたが、手慣れたものだ。
「君たちは——この国の民ではないな?」
騎士たちを指揮しながら、ウォラフは俺に言った。
「はい。何で分かったんですか?」
俺は答える。
「この国の高位指揮者は、ほとんど王宮付きだ。ドラゴンを倒すほどの式者なら、私たちも把握してるはずだ。──もっとも、そんな式者は……今のリターニアにはいないがな」
ウォラフは答えた。
「俺たち、王宮行っても大丈夫なんですか?その……リターニアは他国と距離を取ってるって聞いたんで」
俺は恐る恐る聞いた。
「命の恩人ともあれば、話は別だ。礼には礼を以て尽くす。それがリターニアの流儀だ」
ウォラフは答えた。
どうやら、義理堅い国民性のようだ。
「なんでみんなはドラゴンと戦ってたの?」
キセキが聞いた。
「つい最近、近くの集落がドラゴンによって壊滅してな。国として討伐にやってきた。——だが、想像以上だった」
ウォラフは悔しそうな顔をする。
「式術だけでなく、剣でも——君たちの方が上だった。
我々はリターニアを背負っているというのに……不甲斐ない」
騎士としてのプライドというやつだろう。
唇を噛んでいる。
「……ドラゴンは大体解体できたようだ。先導する。ついてきてくれ。馬車はあるのか?」
ウォラフの問いに、俺は頷いた。
俺たちは馬車に乗ってウォラフたち騎兵団について行った。
騎兵団はアルカディアにもいたが、どちらかと言えば治安維持が中心だった。
昔は魔獣討伐もしていたらしいが……何しろ魔獣の被害なんてほとんど聞かない。
だが、リターニアではそれが日常なんだろう。
馬車で一時間ほど。だんだんと集落が見える。
街という規模ではない。集落。村。
そんな表現が正しいだろう。
田園に、井戸。自給自足の生活のようだ。
騎士団が通るたびに、子どもたちが声を上げる。
ウォラフは手を振って応えていた。
王宮に着くと、ウォラフは兜を脱ぎながら言った。
「リターニアでは、騎士団は子どもたちの憧れなんでな。君たちに助けられた立場としては恥ずかしい限りだが、声援には応えてやらないと」
そのまま、王宮の中へ進んでいく。
王宮の作りは──テオロッドのそれに似ていた。
懐かしさを覚える。
このところ、最新科学の建物ばかり見ていたので、落ち着くな。
応接室のような場所に通されると、一番奥に王らしき人が座っていた。
「ガラム王。こちらの方々がドラゴンを討伐してくれました」
ウォラフが報告する。
王は、ゆっくりとこちらを見る。
立ち上がると、頭を下げた。
「リターニア国王として、心より感謝を申し上げる。
ガラム=リターニアだ」
そう名乗ると、微笑みを浮かべた。
紫の髪。立派な口髭。
いわゆる王のたたずまいだが、その表情に──どこか見覚えがある気がした。
「ユグラシアより来ました。十八将、エイナ=ウィザロッドです」
俺が回答に困っていると、エイナが前に出て名乗った。
その方が、通りがいいと判断したのだろう。助かる。
「正直だな。ユグラシアから、ということは密航ということ。
──そうまでして、どうしてリターニアに」
少し目が動いた気がしたが、表情は変えない。
さすが、王ということだろうか。
「紫帝──ファイスに会いに来ました。ノーザリィへ向かう途中でした」
「……なるほど。だとしたらここに立ち寄ったのは正解だ」
「どういうことです?」
「ノーザリィまで行く必要はない。──王宮でファイスと交信できるからだ」
……まさかの近道発見だ。
「本来、他国の人間に交信施設を使わせることはないが──君たちはドラゴンを討伐した英雄だ。その恩に報いることとしよう」
「それは、大変ありがたいお話ですね。──ガラム王。一つ聞いてもいいですか?」
エイナが言った。ガラムは頷く。
「リターニアは独立国家を貫いているのに、なぜファイスの存在を許容しているのでしょうか?ファイス──紫帝は、アーカーシャ帝国に任命されています」
エイナの質問に、ガラムは少し顔をしかめた。
「うむ。その点については何とも回答が難しいが……リターニアは、ファイスを紫帝として見ていない。国家の行く末を指示する──いわば、指南役と捉えている」
「指南役?」
「これまで、ファイスは数々の災害を予知してきた。私が王になるより、はるか昔からだ。古来、リターニアはファイスに助けられてきているのだ。
ユグラシアとの国交を断ったのも……ファイスの助言だ」
……どういうことだ?
アーカーシャ帝国に属するはずの紫帝──ファイスが、リターニアとユグラシアを分断している?
「……分かりませんね。なぜそんなことをするんでしょう。紫帝は──アーカーシャ帝国の維持や発展に寄与することが責務のはずです」
エイナが、指を顎に当てた。
「真意は分からない。だが──この国は何百年もそうしてきた。ファイスがいつから存在するのかは分からない。私も直接会ったことはない」
「直接聞いてみるがいい。紫の式者はいるか?」
「──半分なら」
キセキが手を上げた。
その髪の色を見て、王は目を細めた。
「その髪の色は……生まれつきか?見たことのない色だ。隣の君も。
ユグラシアでは普通なのか?」
ガラムはキセキと俺の髪の色を見比べている。
「ユグラシアでも見たことはありません。話すと長くなるので、まずファイスに合わせてもらえませんか」
エイナが事務的に話した。
助かる。
説明が大変だし、俺たち自身もよく分かっていない。
王は立ち上がり、ついてくるように言った。
何千年の悠久の時を生きると言われる、紫帝ファイス。
一体──どんなやつなんだろうか。




