第八十五話 ドラゴンと、リターニア騎兵団と。
森の中にいたのは——巨大なドラゴンだった。
口から火を吐く怪物と、武装した集団が戦っている。
十人くらいはいるだろうか。
しかし、半数ほどが倒れている。
「……神獣までいるんですね、この国は」
エイナが呟いた。
「メイ、ラウル!助太刀だ。エイナは、回復を。デンガランさん、注意を引きつけて!」
俺はすぐにみんなに指示を出した。
「了解。めっちゃくちゃウロコが硬そうだけど……斬れるかしら」
メイは剣を抜いた。
「斬るしかねえだろ。縦より横切りの方が筋肉繊維的には斬れそうだな」
ラウルも剣を抜く。
「よし。お前ら、続け!」
デンガランは、茶の式を発動させる。
ドラゴンの足元の地面が、崩れる。
——大きな穴が地面に開き、ドラゴンはそこに沈んでいく。
その瞬間に、メイとラウルが飛びかかる。
一太刀。
鈍い音が響く。
「かってぇ!!」
ラウルの声。
ドラゴンは、すぐさま穴から飛び出した。
──空を飛んでいる。
背中の羽は、飾りではなかった。
「キセキ!紫の式で行動を止められるか!」
俺が叫ぶと、キセキは分離した紫の球をぶつける。
「目くらましをしたよ!しばらくは視界不良のはず」
ドラゴンは方向感覚を失い、地面に落ちる。
その隙に、再びデンガランが穴に落とす。
斬りかかるメイとラウル。
ドラゴンの怒号が響く。
「キセキ、そのまま──ソラリスの準備だ」
残っている火球に、俺はブースターを込める。
「ソラリス!」
膨れ上がった火球が飛んでいく。
よし、これで──
そう思った瞬間。
ドラゴンがこちらを向いて──口を開けた。
口から、火球が飛び出す。
──!!
これは……エルデネ級だ。
ソラリスとぶつかり、相殺される。
──まじかよ。
シーサーペントの頭を吹き飛ばした式術を、かき消しやがった。
ドラゴンは口から煙を上げている。
「あの火球を食らったら一発で消し炭だな……」
俺は恐らくガーディアンが発動する。
が、仲間たちはそうもいかない。
──ドラゴンは喉を震わせている。
連射はできないみたいだな──なら。
再び火球を出される前に、決着をつけなければ。
「みんな!一旦集まってくれ!」
デンガラン、メイ、ラウルが俺の後ろに集まる。
──意図を理解してくれたみたいだ。
ドラゴンの注目が一点に集まる。
先頭の俺と目が合う。
正直──怖い。
いくらガーディアンがあるとはいえ、
もし発動しなかったら、が頭をよぎる。
それでも──これにかかっている。
俺は、再びキセキの火球にブースターをかける。
今度は、撃つタイミングが大事だ。
ドラゴンは再び俺たちに向かって炎を吐く。
怒っているのか──先ほどより大きい。
俺の目の前で透明な壁が生まれ──火球を散らす。
だが、目の前は炎の渦だ。
その炎が止んだ瞬間。
「デンガランさん!足止めを!」
デンガランは、再び茶の式術を発動する。
今度は、穴ではない。
地面がまるで生きた蛇のように、ドラゴンの足に絡みつく。
──すげえな。さすが十八将。
俺はキセキに目線を送った。
キセキは頷く。
「ソラリス!!」
今度は──避けきれないだろう。
キセキの作り上げた火球──とは言ってもそれは炎ではない。
凝縮されたエネルギーの塊だ。
ソラリスはドラゴンの顔に命中した。
俺とキセキの連携式術は──ドラゴンの頭を半分吹き飛ばした。
神獣は、その場に倒れこむ。
巨体が大きな音を立て、地面を揺らす。
先ほどまで戦っていた兵たちのどよめきが上がる。
エイナの治療も、おおむね終わったようだ。
見たところ──死者はいなそうだ。
良かった。
「手助け、誠に感謝する」
騎士団の長らしき男が、俺に近づいてきて言った。
兜に髭の中年。しかし、体は引き締まっていそうだ。
「私はリターニア騎兵団長、ウォラフ。君たちは──式術者か」
「えーと、うん、まあ……」
俺がしどろもどろしていると、エイナがやってきた。
「アラタ。隠していても仕方ありません。ありのまま話しましょう。
私たちの要望も。命の恩人を──むげにはしないでしょう」
エイナが言った。
確かに。
俺たちが来なかったら、全滅していたかもしれない。
「何が事情があるようだな。私たちはドラゴンの遺体を王宮に持ち帰らねばならない。悪いが、話は王宮で聞かせてもらえないか?」
え……?
せっかくこそこそ裏街道を突き進んだのに、結局ど真ん中の王宮入り。
旅は、なかなか思い通りにいかないものである。




