第八十四話 魔獣の森
「でやぁっ!」
メイの叫び声と共に、魔獣の断末魔が響く。
その場に、倒れる音がする。
「さすがです、メイ。こういう時は剣士が頼りになりますね」
エイナが拍手をする。
「はぁ……はぁ。戦うのは別にいいんだけどさ。何でこんなに魔獣がいるわけ?」
リターニアに到着し、ノーザリィに向かう途中。
俺たちは幾度となく魔獣に襲われた。
メイとラウルを中心に撃退はしているものの——確かに数が多い。ユグラシアではほとんど見なかった。
「アーカーシャ帝国内は、科学の力で魔獣を撃退していますから。余程の辺境に行かないと遭遇しません。
リターニアは、その辺り対策していないのかもしれませんね」
エイナが答える。
ロッド大陸でも、昔は魔獣が出たと聞いたことがある。
それも、式者や騎兵団の力で市街地に出ることは殆どなかった。
俺も、マルカドールの魔獣園で見たことがあるくらいだ。
普段目にするのは、人間に危害を加えない小動物ばかりだ。
メイは、背中の傷をエイナに向ける。
先ほどの魔獣——熊ほどの大きさの猫科の魔獣に、引っ掻かれた爪痕だ。
生々しい傷が残っているが、エイナのヒーリングでみるみるうちに塞がっていく。
傷が癒えると、再びデンガランは馬車を走らせた。
「しかし、随分荒れた道ばかり通ってる気がするけど」
俺は、辺りを見回す。
何とか馬車で通れる道だが、当然街道ではない。
森や草原をずっと通っている。
「リターニアは排他的な国ですから。立場上、密入国の私たちは人里は避けたほうがよいでしょう」
エイナが言った。
え……密入国なの?
そう言えば、デンガランが「法を犯して」とか言ってたな……。
「そこは十八将の力でなんとかならなかったのか?」
俺は言った。
「アーカーシャの言うことを聞かない国ですから。十八将はおろか六帝の言うことも聞きませんよ。紫帝ファイスの言うことなら聞くのかもしれませんが」
「……それも変な話だな。六帝は、アーカーシャの配下なんだろ?なのに紫帝はリターニアにいるなんて」
俺は疑問をぶつけた。
「六帝はアーカーシャ帝国の中での役割ですから。全員が部下というわけではありません。どちらかと言えば、紫帝がどんな役割なのか分からないのが不気味ですね」
どうあれ、他の六帝はアーカーシャ帝国内でなんらかの役割を持っている。
赤帝のガゼリアはコラル国王。
緑帝のザラミは環境保護。
青帝のステラは海洋管理。
黄帝のサーラは——査定官。
役割が分からないのは、紫と茶か。
「そう言えば、茶帝は何をしているんだ?」
「……その話は、また今度にしましょう。どうやら、それどころじゃなさそうです」
エイナは俺の問いに答えず、デンガランに馬車を停めさせた。
遠くから——人の声が聞こえる。
話し声ではない。怒号や、叫び声だ。
「リターニア国民ですね」
エイナが呟く。
視認はできない。だが、森の奥から聞こえる。
「ねえ、多分だけど……魔獣と戦ってない?」
メイが言った。
「それも、苦戦してそうだな」
ラウルが続けた。
悲鳴のような声も聞こえてくる。
「ねえ、アラタ」
キセキが俺を見る。
エイナがため息をつく。
「非合理的です。リターニア国民に、私たちの存在が分かってしまいますよ」
俺が何も言う前に、エイナは分かっていたようだ。
「分かってる。でも——困ってる人がいたら、助けるのが人間だろ?」
「馬車は置いてくか?」
デンガランはすでに馬車を降りている。
「みんな、俺に背中をむけてくれ」
俺は、全員の背中にありったけのブースターを込めた。
「よし。いくぞ」
俺たちは、森の中は走り出した。




