第八十三話 独立国家リターニアと、デンガランと。
「何とか着いたな」
岸に船を係留し、俺たちはリターニア大陸に降り立った。
潮の流れも味方し、予定より早く着いた。
シーサーペントとの戦いがなければ、二時間くらいだっただろう。
「集落が見当たらないな」
ラウルが呟いた。
「基本的に、排他的と聞いています。ユグラシア大陸からの客を歓迎していないのでしょう」
断絶された、独立国家。
まるでロッド大陸のようだ。
違うのは、ユグラシア——アーカーシャ帝国を認識しているか、していないか、だ。
「ここは大陸とは言っても、大きさはユグラシアとは比較にならないほど小さいです。とは言え、車がないのは辛いですね。端末がなければ、目的地もたどり着けないかもしれません。えーと、ファイスのいるとされているノーザリィまでは」
エイナは、端末に表示される地図を見ながら言った。
「目的地までは徒歩で、十日と十二時間と出ますね」
……無理だ。
そんなに歩けないし、そんなに時間をかけてられない。
「この国も科学を嫌っていますが、馬車はあります。
三日くらいに縮められるでしょう。デンガランに先に入って準備してもらってますから、落ち合いましょう」
「え?いつ連絡取ったんだ?」
俺が聞くと、エイナは端末を俺に見せた。
「これ、本来は電話ですから。ちょうどエデナ開発の仕事が終わって長期休暇中だったんで、頼んでおきました」
「お前、国土開発庁は辞めたんじゃなかったっけ?」
「はい。なので、これは友人としての依頼です。デンガランは少し渋ってましたが、長官にバラすぞ、と言ったら慌てて引き受けてくれました」
……それは正しい友人関係なのか?
エイナはどうやらデンガランの弱みを握っているようだ。
しばらく北に向かって歩いていると、向こうから馬車に乗ったデンガランがやってきた。
大きい馬車だ。俺たち全員乗れるサイズを手配してくれたんだろう。
「デンガランさん。お久しぶりです」
俺が挨拶をすると、デンガランは困った顔をした。
「アラタ。エイナの暴走を止めてくれ。この国に入って馬車を用意するのに——俺はいくつも法を犯す羽目になった」
「中々いい馬車ですね。では、そのまま馬車の操縦をお願いしますね」
エイナがサラッと言うと、デンガランは表情を変えた。
「話が違うぞ!俺の仕事は馬車の手配までのはずだ!休暇を全て使わせるつもりか?」
「どうせ独身のあなたはすることもないでしょう。付き合ってくれれば、あの証拠は消しますよ」
エイナが言うと、デンガランは眉を動かした。
「なに!本当だな?じゃあ、今後エイナに脅されることもなくなるんだな!」
「脅しなんて、人聞きの悪い。取引ですよ。まぁ、ファイスまでの送迎には、それくらいの価値があります。
黒歴史から解放してあげますよ」
デンガランは、目頭を押さえて天を仰いだ。
——何の弱みを握られてるんだよ。
ファイスよりそっちが気になってきた。
しかし、一時的にでも——茶の十八将、デンガランが加わってくれるのは心強い。
何しろ、俺たちの中でまともな式者はエイナしかいないからな……。
俺たちは物資と食材のたっぷり詰まった馬車に乗り込み、ファイスのいる場所——ノーザリィへと向かうことになった。




