第八十二話 ご機嫌ラウルと、大海蛇。
「うーみかっぜうけてー、すーすむふねー、っと」
ラウルの歌声が、船に響く。
「……あいつ、あんな性格だったっけ」
メイが俺に言った。
「相当上機嫌だな。……まあ、毎日帆船に乗ってたみたいだから、ストレス溜まってたんだろうな」
俺は答えた。
「ふふ。完璧に計算通りだ。自分が怖い」
キセキは船の様子を見ながら、にやにやしている。
いや、お前が怖い。
タツオ叔父さんの影響で計算マニアになったのは知っているが、こいつも様子がおかしい。
みんな、慣れない長旅でストレスが溜まっているのかもしれない。
変わらないのは、ある意味メイだけだ。
冒険の発起人でもあるだけあって、肝が据わっている。
ロッド大陸にいた時と何も変わらない気がする。
ある意味、それが俺に安心感を与えてくれるが。
様子がおかしいといえば、もう一人。
「ぎえぇぇえ!!」
船が揺れるたびに、エイナが大声で騒ぎたてる。
どうやら、初めての帆船に怯えているようだ。
——まぁ、リターニアまでは数時間だけつくみたいなので大丈夫だろう。
視界の向こうに、うっすらリターニア大陸も見え始めている。
天気は少し悪いが、なんとかなるだろう。
少しの間、仮眠でもとろうかな。
そう思っていると、キセキが俺に声をかけた。
「ねぇアラタ。あれなんだろうね」
キセキが指差したのは、海の方だった。
少し向こうから、黒い影が近づいてくる。
——嫌な予感。
「おい、ラウル。あれ」
俺はラウルに声をかける。
「クジラじゃ……ないよな?」
俺が笑いかける。ラウルは歌をやめ、海を見ると顔面蒼白になった。
舵を離し、剣を抜く。
「戦闘準備!……シーサーペントだ!」
シーサーペント?
確か……海の主と言われる、大海蛇だ?
「なになに!魔獣!?」
メイがものすごい速度でやってくる。
俺は、二人に言った。
「エイナは機能していない。俺たち四人でやるしかない。
俺とキセキで式術の準備するから、二人で応戦してくれ!」
俺はそう言って二人の背中を叩いた。
ブースター。
——力が、注がれていく。
「キセキ!一撃で決めよう。ソラリスの準備だ!」
俺が言うと、キセキは式の分離を始めた。
メイとラウルは甲板に立ち、シーサーペントを待ち構える。
しかし、相手は水の中。
下から突き上げられたら——船もろとも破壊される。
シーサーペントの影は、船まであと十メートルくらいに近づいている。
……どうする?
「先手必勝!」
直後、メイは海の中に飛び込んだ。
——相変わらず滅茶苦茶だな。
海の中から、シーサーペントが海面に姿を現した。
叫び声を上げている。
頭の上にメイが乗っている。
「アラタ!準備できたら言って!」
メイの声が聞こえる。
再びシーサーペントは海へ潜っていく。
「アラタ!次に海面に顔を出した時がチャンスだ!」
ラウルは海を見ながら状況判断をしている。
「準備できた!」
キセキの火球に、俺はブースターをかける。
準備オーケーだ。
再び水飛沫を上げ、シーサーペントが顔を出す。
「メイ!離れろ!」
ラウルの叫び声の後、メイは剣を引き抜いて海へ飛び込む。シーサーペントと距離ができる。
「今だ!キセキ!」
俺が叫ぶと、キセキはソラリスをシーサーペントに放った。
火球は唸りを上げ——シーサーペントの頭を吹き飛ばした。
首から下だけになった大蛇は、海の中へ沈んでいった。
メイが泳いで船に戻ってくる。
ラウルがそれを引き上げる。
「いきなり飛び込むやつがいるか?」
ラウルは引き上げながらメイに言った。
「そうしないと間に合わないと思ったのよ。
まぁ、いい連携だったんじゃない?」
メイは濡れた頭を振りながら言った。
……犬みたいだな。
俺は思っただけで、口に出すのは控えた。
とにかく、船が無事でよかった。
もし転覆していたら……俺の命が危ない所だった。
ロッドに帰ったら、泳ぎの練習をしておこう。




