第八十話 いざリターニアへ。
俺たちはマルティアの港でザラミとステラと別れた。
俺たちはリターニアに向けて、彼女たちはヴァレンティアへ向けて。それぞれ違うフェリーに乗った。
先に出発する俺たちに、二人は笑顔で手を振っていた。
屈託のないその笑顔を見ると、二人がこの世界の自然を守る青帝と緑帝ということを忘れそうになる。
「このままフェリーでリターニアに行くのか?」
ラウルがエイナに聞いた。
「いえ。リターニアは帝国に属していないので、その便は出ていません。一旦北上し、船を調達します。
ユグラシア大陸とリターニア大陸を分ける海峡は短いですから、数時間で行けると思います」
「ってことは俺の出番だな」
ラウルが腕をまくる。
剣を修行しているとはいえ、根は船乗り、海の男なのだろう。
「車移動になってからあまり働いてないからな。腕がなるぜ」
ラウルは少し嬉しそうだ。
「働いてないのは私よ」
メイが不満そうな顔をする。
「ボイドたちもあんたらでやっつけちゃったし。剣士の見せ場が少ないわよ」
……できれば見せ場がない方がいいだろ、旅としては。
俺は思ったが、やぶへびになりそうなのでやめておいた。
「リターニアってどんなところなの?」
キセキが聞いた。
「私も行ったことはありません。自然豊かで、太古の文化を大事にしていると聞いています。——少し、ウィザルと近いかもしれないですね」
エイナが答える。
「紫帝もいるんだよな。——何千年も生きてるっていう」
俺は聞いた。
「紫帝ファイスについては、様々な噂があります。代替わりしているのではないか、とか、そもそも存在しているのか?とか。
ただ、ザラミ様がああ言っている以上、実在はしているのでしょうね」
エイナも半信半疑なようだ。
そりゃそうだ。
精神世界か何か知らないが、人間がそんな長い期間生きられるなんて信じられない。
いや、一人いるか。
例外に近い存在が。
セブンスロッドのユラ。
こちらで言えば短命種、俺たちと同じはずなのに、ゆうに百四十歳を超えてなおご存命らしい。
なんでも精神世界で普段は過ごしているようで、その間歳を取らないとか。
母さんとミサキ叔母さんが話してるのを聞いたことがある。
しかし、何千年とか何百年とか……途方もつかない。
十四年しか生きていない俺からすれば、そんなに長く生きて飽きないのか?とさえ思う。
いや、もちろん死にたくはないけどさ。
こっちの世界に来て——死が身近になってしまった。
ロイス。
フュー。
ボイド。
プルーク。
人は——死ぬ。
その事実は知ってはいたが、実感を持って俺の心に刻まれている。
そして、俺たちは——その危険の中で旅を続けている。
デュランを倒し、アイネを取り戻す。
その無謀さを、六帝たちと触れる度に感じる。
エイナも、旅を急いでいることは分かっているはずだ。
それでもリターニア行きを決めたのは——今のままではデュランには勝てないと感じているからだろう。
独立国、リターニア。
そこで何か掴めればいいが——。
俺は小さくなっていくマルティアの島を見ながらそんなことを考えていた。




