第七十八話 別れと、ザラミの想いと。
「ステラが青帝になって、安心したのかな」
プルークの死に顔は──とても穏やかだった。
微笑みをたたえながら、やり遂げた人の顔をしていた。
「きっと、そうですね」
エイナは、棺のプルークに最後の別れを告げた。
急遽手配した葬儀場で、火葬されるようだ。
──骨はステラがヴァレンティアに持って帰るようだ。
ステラは──ずっと泣いていた。
師であり、父代わりであった人が死んだ。
大往生とは言え、すぐに受け止められるものではないだろう。
──この数日で、三人の死を目の当たりにした。
タガロを守って死んだ、フュー。
息子によって殺された──ボイド。
愛弟子の成長を見届け、寿命を全うしたプルーク。
それぞれ、違う形の死。
こんなにも目の前で人が死ぬのを見るのは──初めてだ。
平和なロッド大陸にいた頃は、そんなこと想像したこともなかった。
剣術が、人を両断できる力であることも。
式術が、人を殺せる力であることも。
俺はこの世界に来るまで、ちゃんと理解していなかった。
泣いているステラに、ザラミが声をかける。
「しっかりしなさい。あんたはもう青帝なんだよ。
世界の青の式術者の代表者として生きていくんだ」
「……私は、青帝を目指していたわけではありません。十八将だって、勝手に選ばれただけです。
平和に暮らしていければ、それで満足でした。
ザラミさんは……どうして緑帝を続けているのですか」
ステラはザラミに聞いた。
「……そうだね。百聞は一見にしかず、だ。
エイナ、車出して」
——どこに行くんだろうか。
俺たちはプルークのいなくなったワゴン車に乗った。
整備された道は途切れ、ワゴンは土煙を上げながら走る。
一時間ほど走ると、目の前に森が見えた。
俺たちは車を降りる。
「こっから先は徒歩だ。都市部から一時間。まるで別の国みたいだろ?」
ザラミが言った。
俺たちはザラミについていく。
森の入り口に、看板があった。
「世界自然保護区域」
と書いてある。
森の中を歩く。
涼しい。
鳥の鳴き声、木々のざわめき。
昔行った、アウレオの森に雰囲気が似ている。
「もうすぐ、日が落ちる。急ごう」
ザラミは少し歩くスピードを上げた。
森を抜けると、一気に視界が開ける。
その先には——白い切り立った崖。
崖下には、透き通るエメラルドブルーの海が広がっていた。
その海に——夕日が沈んでいく。
すごい。
表現する言葉が見当たらないけど、これを絶景というのだろう。
俺は言葉を失った。
「すごい!こんなきれいな海初めてだ!」
キセキが声を上げる。
「私がしたかった冒険は、これよ」
なぜかメイは誇らしげだ。
「……静かな海だな。こんな海もあるんだな」
海を知る男、ラウルも呟いた。
エイナとステラは——泣いていた。
海を百八十年見守った青帝、プルークに想いを馳せているのだろうか。
エイナが泣くなんて。
何事にも動じず、淡々とこなしていくエイナが泣くのは、意外だった。
だが、彼女の中にも、プルークへの想いがあるのだろう。
「ステラ。さっきの質問への答えだ。私は——こうした自然保護区を緑の式術で保護している。森の声を聞きながらね。世界には、滅びかけてる自然もいっぱいある。
こんな絶景を、人間の都合で滅ぼしちゃだめだろ?」
ザラミが言った。
「……ザラミさんが森を、プルークさんが海を護って、世界は続いていたんですね。六帝の生きる道が……何となく分かった気がします」
ステラが言った。
「と、いうわけで、エイナ。そろそろ引き継ぎたいんだが、どうだ?」
ザラミの質問に、エイナは涙を拭きながら言った。
「この自然は素晴らしいです。でも、やはりすいません。やはり私は、知らないことを知る生き方をしたいです」
「……国土開発の仕事のこと?まだ続けるの?」
「いえ。それももう辞めました。どうにかしてアーカーシャに辿り着いて、世界の秘密を知りたいです」
——それが、エイナの本心。
俺たちと旅を続けているのは成り行きかと思っていたけど……やはり彼女を動かしているのは、圧倒的な探究心だったのか。
「……それを理由に、環境保護庁入りを断ったんだもんね。まぁいいわ。別の十八帝で候補を探すわ。
それより前に、婚活しなくちゃなぁ」
ザラミは大きく伸びをした。
夕日に当たるその姿は、キレイだった。
ザラミは短命種と言っていた。
多分、母さんより少し年下くらいだが……そうは見えないくらい、美しかった。
「アラタ、あんたお兄ちゃんとかいないの?それか未婚の高位式者とか。ロッド大陸ってみんな短命種なんでしょ?
私もそっちに移住しようかなぁ」
……前言撤回したい。
こうして、シードラでの旅は終わった。
多くの出会い、別れ、悲劇があった。
でも、俺たちはそれを受け止めなきゃいけない。気がする。
少しずつだけど……
アーカーシャは確実に近づいている。
待ってろ、アイネ。




