第七十七話 評議会と、緑帝ザラミと。
マルティアに着くと、そこは端末のAIから説明された通りの賑わいだった。
車ごと降りて、評議会開催地まで車を走らせるが、道路も大渋滞。
歩いた方が早いんじゃないかくらいの速度だった。
「科学は進歩しているのに、道は混むんだな」
俺は呟いた。
「島の人はほとんど公共交通機関を使っています。この車は──ほとんど観光客ですね」
港から市街地まで、ずっと続く車の列。
日が暮れてしまいそうだ。
「評議会、間に合うのかよ」
「港から市街地までは混んでますが、その先は空いていますから」
キセキから運転を代わったエイナが言った。
俺も久しぶりに助手席に座った気がする。
後ろのメンバーはすやすや眠っている。
助手席という名前を聞くだけで、眠ってはいけない気がする。
俺だけ?
評議会の会場には、無事予定通り着いた。
その名前の通り、世界の首脳陣でも集まってるのかと思いきや——人はほとんどいなかった。
作りは、アルカディアの議事堂に似ている。
昔、父さんが話しているのを見に行ったことがある。
中央に椅子が三つ。
その正面に——プルークの家で見た、モニターという機械のようなものがある。
それを取り囲むように、階段状の座席。
身なりの整った男が、ステラを真ん中の席に案内する。
俺たちは、階段席に座った。
プルークは起き上がるのも必死だったが、俺とラウルが肩を貸しながら連れて行った。
——ここで、青帝が決まるのか。
すると、プルークの元へ一人の女性がやってきた。
緑の長いロングの髪。
研究者風の、白衣。
「お久しぶりです、プルークさん」
女が、プルークに声をかけた。
「ザラミ。お前も来たのか」
プルークが笑みで返す。
「ザラミ様、お久しぶりです」
「あら、エイナもいるのね。あんた、十八将になったんじゃないの?なんでまだプルークさんといるのよ」
「たまたま、成り行きです。ザラミ様こそ、どうして評議会に」
「新たな六帝の誕生を見届けるのは、六帝の責務でしょう?もっとも、そう思っているのは私くらいみたいだけど」
ザラミは、周りを見回す。
他の六帝は来ていないのだろう。
「エイナは?いつ六帝になるの?」
ザラミはエイナに言った。
「……緑では無理でしょうね。あなたがいる限り。私は六賢を目指しますよ」
エイナは淡々と言った。
「……それはつまらないわね。私はさっさと結婚して家庭を持ちたいのよ。あなたが目指してくれないと困るわ」
「パラドクスですね。私が緑帝になるより、ザラミ様が結婚するほうが難しいと思いますが」
「……相変わらずはっきり言うわね。あなたはいいけど、私は短命種なのよ。三十二歳、繁殖期としてはかなりピンチなのよ。いい男はいないの?あら、その方たちは?」
ザラミは俺たちの方を見る。
「十二歳から十五歳の少年をお好みならどうぞ。ザラミ様のターゲットとはズレてると思いますが」
「……よく覚えてるわね。二十五歳から四十歳、式術ランクはA以上。品行方正、私の言うことを聞く、超絶イケメン。昔から変わらないターゲットよ」
「……世界に存在しない相手を、いつまで探すんですか。美人なんだから、妥協すればいいんですよ」
エイナはため息をつく。
「褒めてるのか貶してるのか分からないわね。私は——妥協はしないわよ」
腕を組むザラミに、プルークが言った。
「ガゼリアでいいじゃないか。年齢以外は合ってるぞ」
「……プルークさん。まだ言ってるんですか。私は同じ短命種で相手を探してるんです。それと、ガゼリアだけは死んでも無理です」
「私はお似合いだと思うがな。まあいい。そろそろ、評議会が始まるぞ」
プルークは言った。
——プルークさんも、今日は調子がよさそうだ。
議事堂の電気が消え、モニターが明るくつく。
会場に、声が流れ始める。
「皆様、お集まりありがとうございます。人材管理局の皆様、準備お疲れ様でした」
——女の声。
年齢は読み取れない。
まさか、この声が……
「アーカーシャです」
俺の疑問を察したのか、エイナが呟いた。
「アーカーシャ?どこかにいるのか?」
「音声のみです。私も、姿を見たことはありません」
アーカーシャの声は続けた。
「本日は青帝プルークの体調不良による、後任青帝の選出を行います。候補者は青の十八将の三人。
ステラ、タガロ、エルグ」
議事堂に、緊張が走る。
しかし、今モニターの前に座っているのは……
ステラだけだ。
「タガロは本日欠席、エルグは先週死亡しました。
よって、自ずとステラが青帝になります」
——事務的な声が、響く。
「ステラ=フランシス。
この瞬間より、青帝となり帝国発展のために業務を遂行してください。
業務内容については、プルークより引き継ぎを受けてください。
もしプルークが亡くなった場合、私宛に連絡ください。
連絡先は端末に送ってあります。
欠員となっている新たな十八将については、選出次第本人たち及び青帝に通達します。
それでは、評議会は以上になります」
え?——終わり?
議事堂にはまばらな拍手が鳴る。
「プルークさん、おめでとうございます。長い間、お疲れ様でした」
ザラミがプルークに声をかけた。
プルークは、安堵の表情を浮かべる。
「ありがとう。これでいつでも死ねるな」
プルークは百八十年間青帝を務めあげた。
それに対して──アーカーシャからは何の言葉もなかった。
「エイナ、アーカーシャと話をできないのか」
俺は、なんとしてもアイネの情報を手に入れたかった。
デュランがアーカーシャの部下だとすれば、何かを知っているはずだ。
「無理ですね。この音声は、首都アーカーシャから通信で飛ばされているだけです」
この場にはいないということか。
そうだろうとは思っていたが……。
ステラが、俺たちの所へ戻ってくる。
「プルーク様!私……不安です」
青帝になったばかりの少女は、頼りない表情を浮かべている。
「大丈夫。ステラの力なら、うまくやれる。
ただ──お前のやりたいようにすればいい。
私はアーカーシャの指示通り動いただけだ。
お前なりの青帝をやればいい」
プルークは、そういうと咳き込んだ。
──嫌な音がする。
直後、その場に吐血した。
「師匠!」
エイナがとっさにヒーリングをかける。
それに、ザラミも加わる。
六帝と、十八将。
世界最強のヒーリングだ。
しかし。
プルークの容体は、よくならなかった。
「ザラミ様!どうにかならないんですか」
ステラが焦った表情をする。
「落ち着け。あんたはもう青帝だ。これから──たくさん人の死に向きあう。
あんたにできることは、しっかりと見届けることだ」
「でも……まだ何も青帝のことを教わっていません!
緑帝なら、どうにか治せないんですか」
ステラは叫んだあと、自分の言った言葉の意味に気づく。
ザラミは少し寂しそうな顔をしている。
「す、すいません、悪気はなくて……」
「いいさ。言っておくけど、式術じゃあ、人の寿命は変えられないよ。
変えたのは──科学だ。
やるだけ、やってみるけどね」
ザラミはヒーリングを強める。
額は汗ばんでいる。
エイナも必死に式術を流し込み続ける。
俺は、二人の式術にブースターをかける。
どれだけ効果があるか分からない。
でも、できることはしたい。
……だが。
プルークの呼吸は、少しずつ弱くなっていった。
「みんな。ありがとう」
小さくそう呟いて──
プルークは静かに目を閉じた。
世界を百八十年間見守り続けた男は、
穏やかな表情で眠りについた。




