第七十六話 シードラ海、フェリーの旅。
シードラ海のほぼ中央に位置するシードラ国首都、マルティア。
人口はおよそ二十万人。
島全体が巨大な港町として発展しており、「海の玄関口」とも呼ばれています。
島のシンボルは、世界最大と言われているカジノ。
カジノを目当てに世界各国から観光客が集まり、常に島は賑わっています。
市場には、その日の朝に獲れた魚介類が並び、焼き魚や貝料理、海鮮スープなどの屋台が軒を連ねます。
特に名物のマルティア煮込みは、数十種類の魚介を長時間煮込んだ郷土料理として知られ、旅行客のお目当てになっています。
島内は坂道が多いですが、公共交通機関が非常に発達しており、バリアフリー化も世界トップクラス。
高齢者や身体の不自由な人でも不便なく生活できるよう設計されています。
その一方で、島の中心部を離れると景色は一変します。
切り立った白い断崖。透き通るエメラルドブルーの海。手つかずの森林。
世界自然保護区域として管理されるそれらの自然群は、自然の美しさをそのまま閉じ込めたような絶景です。
夕暮れになると港一帯がオレンジ色に染まり、
丘の上から見下ろす景色は、“世界一美しい夕日”とも称されています。
続けてお勧めの観光スポットを提案しますか?
「もういいよ!勝手にしゃべるな!」
俺は端末に向かって言った。
端末は、分かりました、終了します。
といって静かになった。
「ふう。やっと終わった。でも、すごいなこれ」
俺はエイナの端末を見ながら言った。
ボタンを押しながら、マルティアってどんなところ?と話しただけで、勝手に話し始めた。
「人工知能。AIです。ほぼすべての端末に搭載されてますよ」
エイナが当たり前のように答える。
「……辞書とかいらないじゃん」
俺は呟く。
「辞書?なんですかそれは」
エイナが聞いた。
──科学力の差が凄すぎると、こうなるのか。
父さんたちも、この端末を見たら腰を抜かすだろうな……。
俺たちの想像の域を超えている。
車ごと乗船したフェリーは、潮風を受けながら順調に進んでいく。
船の中には、観光客でひしめいていた。
端末の回答によれば──カジノ目当てだろう。
身なりのいい人たちが多い。
「自分が操縦しない船なんていつぶりだろうな」
ラウルはプールデッキに寝そべりながら、カクテルを飲んでいる。
「お前、すっかり旅行気分だな……」
「たまにはいいだろ。この大陸来てずっと働いてんだから」
確かに。ラウルの活躍と成長は、俺たちのパーティの中でも群を抜いている。
少しくらい休んでも罰は当たらなそうだ。
「エイナは、泳がなくていいのか?」
俺はパラソルの下でジュースを飲んでいるエイナに聞いた。
「私は泳げません。アラタこそ、端末ばかり見ていないで目の保養はいいんですか?」
そう言ってプールのほうを見る。
そちらでは、キセキとメイ、ステラがビーチボールで遊んでいる。
「お前、なんかおじさんみたいなこと言うな……」
「若い男の子は、みんな女の子に興味があると教わりました」
「……一体誰がそんなことを」
「師匠です」
プルーク。
一体何を教えてるんだあの人は。
当の本人は客室で休んでいる。
「エイナはもちろん、マルティアに行ったことあるんだろ?」
「はい。私がウィザルを出て、最初に向かったのはマルティアでした。人材管理局より、ザラミ様に師事するように薦められました」
「あれ?エイナの師匠はプルークさんだろ?」
「はい。ザラミ様に断られました。あなたは緑の式を教わるより、世界のことを教わった方がいい、と。なので、師匠の元へ」
へえ。
そんなパターンもあるのか。
教えるのが面倒だったのか、それとも本当にエイナのことを考えたのか。
それは俺には分からないが……聞いている限りで悪い人ではなさそうだ。
それに、プルークが信頼できる六帝とも言っていた。
その一人にガゼリアが入っているので怪しい情報ではあるものの——きっとザラミも悪人ではないだろう。
「アラター!ボールそっちにいった!とって!」
メイが俺に向かって叫んでいる。
水の中を飛び跳ねる度に、胸が揺れる。
──ふむ。しっかり育ったようだな。
昔は大きな尻ばかり目立って心配していたが、全体のバランスが取れてきたようだ。
腹筋が割れている点が俺的にはマイナスだが、好みの問題だろう。
まあ全体的にいい体と言っていいだろう。
それよりも気になるのは、隣ではしゃいでいるステラだ。
身長の大きさが目立っていたが──大きいのはそれだけではない。
破壊力のある胸元。
まるでスイカが二つ並んでいるようだ。
その二つが、ジャンプする度に大きく揺れる。
船で買った水着のサイズは合っているとは言い難く、今にも取れてしまいそうだ。
「……アラタ、鼻の下が伸びていますよ」
エイナの声でハッとなる。
「い、いや、違う!ボールが来たから……」
「やはり師匠は正しかったですね」
エイナはそういうと、ため息をついた。
まるで母親に恥ずかしい所を見られた気分になる。
くそ。なんで同じ顔してんだよ。
それを言ったら、一緒に遊んでいるキセキの方が下心が──
そう思ってキセキを見ると、女性二人そっちのけで全力で泳いでいた。
……単純に楽しんでいるだけかよ。
俺も泳げばいいって?
忘れたのかよ。
俺は泳げないんだよ。




