第七十五話 新車に乗って、マルティアへ。
「師匠、ステラも加えて、パーティは七人になります。
これまでの車では乗れないので、新しい車を買ってきました」
エイナは白い新車──ワゴン車というらしい──の前で言った。
「車って……高いんじゃないのかよ」
俺は言った。
これだけの科学が詰まった乗り物が、安く買えるとは思わない。
「この車は、一般的な市民の一年分の給与くらいですね。
──まあ、一応十八将ですので、その辺はご心配なく」
十八将は、立場だけじゃなく給与まで高いのか。
俺とそう変わらないエイナが、改めて社会的地位の高い人間だと思わされる。
「確か、マルティアって海の真ん中の島じゃなかったか?
車で行けないだろ」
ラウルが聞いた。
「はい。ですから、マルティアまでは、フェリーで行きます」
エイナが言った。
「フェリー?」
キセキが聞いた。
「車ごと乗船できる、大型旅客船です。師匠は歩くのも厳しいですからね。基本、車移動です。
そのために、バリアフリーの車にしました」
バリアフリー。聞き慣れない言葉だったが、要するに体の不自由な人でも使いやすい車ということらしい。
「評議会ってどんな感じなんですか?」
俺は、車にプルークを載せながら聞いた。
「六帝の候補者が一堂に会し、その場で新たな六帝が指名される。
評議会とは名ばかりで、議論などない。
指名の瞬間を持って、私は六帝の任務は終了だ。
──今回は、青の十八将の三人が集まるはずだったが。
果たして集まるかどうかも分からん」
「タガロの動きが見えないですしね」
俺が言った。
タガロの最後の言葉が気になる。
六帝も、六賢も──全部潰してやる、と言っていた。
なにをするつもりなのか。
評議会を潰すつもりなのか。
それとも──アーカーシャの制度そのものを?
「青の十八将は、三人いるんですよね。
ステラとタガロと──もう一人は誰なんですか?」
俺はプルークに聞いた。
「エルグという男だ。確か四十代くらいのはずだ。
本来であれば青帝になるべき年齢なのだが……」
「なにか問題が?」
「素行が悪い。後進の育成をせず、自分の利益のために生きているような男だ」
……俺から見ると、ガゼリアも似たようなものかと思ったが、言うのはやめておいた。
ワゴン車は、きらびやかなヴァレンティアの街を走っていく。
なぜかちゃっかり運転席のキセキは、変装の時のサングラスをつけたままだ。
郊外にあるプルークの家から港までは、三時間くらい。
そこからマルティアまではフェリーで一日とのことだ。
船の中で一泊するらしい。
泊まれる船……?想像もつかない。
「久しぶりの海か。気分が上がるな」
ラウルの目は少し輝いている。
「えー、魚くさくない?」
メイが嫌そうな顔をする。
「それがいいんじゃないか。多分、メシもうまいぞ」
すっかり二人は打ち解けている。
もはや俺よりラウルの方がメイと仲がいいんじゃないか。
過ごした時間より、密度の方が大事なんだろうな。
アイネと過ごしたのも──ほんの一週間くらいだった。
なのに、どうしてだろう。
こんなにも心に深く、存在が刻み込まれている。
「剣士組は——修行どうでしたか」
エイナがメイとラウルに聞いた。
「教わった式術学校へ行って、式術斬りの練習してきたよ。
でも、あんまり強い式術者はいなかったな」
ラウルが答える。
「私たちも、戦いたかったわよ。まさか、アイネをさらったやつがこの街にいたなんて」
メイが不満そうに言った。
「──シードラは、科学寄りの国ですからね。式術はあくまで科学の補助的な立ち位置です。高位者はウィザルに集まります」
「マルティアに強い剣士はいないの?」
メイは言った。
こいつはどこまで戦闘脳なんだ……。
自分より強い奴を求め続けている。
「剣士は、心当たりはないですね。式者なら、ひとり住んでいますが」
「……エイナの知り合いか?」
俺は聞いた。
「はい。緑帝──ザラミ様です」
緑帝。ユグラシアの最強のヒーラーということか。
だが、あくまで俺たちの目的は無事に評議会を終え、
ステラの青帝就任を見届けることだ。
車が港に近づくにつれ、潮の香りが車の中に入ってきた。




