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ユグラシア冒険記 —幼なじみに連れられて、未知の大陸を冒険することになった件—  作者: ヨダカカツキ
第七章 海洋国家シードラ

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第七十三話 タガロと、フュー。

俺たちがヴァレンティア郊外のプルークの家に着くと──

玄関の前に三人が立っていた。


エイナは車を横付けし、慎重に近づく。


ドア越しにボイドが何かを話している。


「開けてくださいよ。話をしたいだけなんですよ」

ボイドがドアを叩いている。


しかし、ドアは開かない。


「話すことはありません。帰ってください」


ステラの声が、ドアの向こうから聞こえてくる。

──よかった。


間に合ったみたいだ。


ボイドは舌打ちをしながら、振り返る。


──不意に目が合う。


緊張が走る。


だが──。

ボイドの表情は変わらない。


それが、俺のことなど覚えていないということを証明している。


──馬鹿にしやがって。

お前が何を踏みにじったのか──思い出させてやる。


「ボイド。何の用です」


「ん?なんだ、ここの小姓だったエイナじゃないか。

目上の人には様をつけろと教わらなかったか?」


「敬称は、敬意をもつべき相手に使うものです。

──あなたに使う必要はないでしょう」

エイナは、凛とした顔で言った。

「帰ってください。ここに何の用ですか」


「お前、誰のおかげで十八将になれたか忘れたのか?

俺が推薦したからだろうが」


「──師匠のおかげと認識していますが。

あなたに何かしてもらった記憶はありません」


「……ガキが。まあいい。プルークに会わせろ。

あいつは──重大な職務怠慢だ」


ボイドの語気が荒くなる。

──そして。

どうやら俺たちが予想したストーリーは当たっているようだ。


「──それで、師匠を私刑にするつもりですか?

ステラもろとも」

エイナは式術を発動する構えを見せた。


「──なんのことだ。俺はただ注意勧告に来ただけだが。

お前、その式術を発動したら上官に歯向かうことになるが、分かっているのか?」


「……あなたと違って、私はアーカーシャの意志に動かされる人形ではありません。私は私の判断で生きています。

師匠や友に手を出そうとする輩がいたら──成敗するのが当然でしょう」


エイナが言うと、ボイドは笑った。

「はっ。話が早そうだな。タガロ、フュー。こちらのお嬢さんの相手をして差し上げろ」


ボイドの指示に、タガロは少し嫌そうな顔をしたが──こちらに向かって歩き出す。


──戦闘開始の合図。


俺はエイナとキセキにブースターをかける。

そして──自分自身にも。


「二対三。火力は──ソラリスを軸に。私は陽動します」

エイナが小さく俺に言った。

俺は頷く。


エイナは駆け出すと、第一撃──炎の球を繰り出した。


だが、小さい。

エイナはヒーラーだ。

いくら全方位式術者とはいえ──専門家には敵わない。


フューが放った火球で、一瞬で相殺される。


──それでも。多彩な式術で、二人を相手に時間を稼いでいる。


「キセキ、できたか」


「うん、行けるよ」


キセキの手のひらで、紫と赤の式術が分離する。

俺は──赤い球にブースターをかける。


「ソラリス!」

キセキの声と共に、膨れ上がった火球がタガロに向かっていく。


当たれ。当たってくれ。


しかし。


タガロは一瞬で大きな水の塊を作り出し──その火球をかき消した。


玄関の前に座りながら、ボイドは拍手をしている。


「いいぞ、タガロ。青の六帝になる力を見せつけてやれ」


──安全な場所から、見物。


つくづく、許せない。


直後、俺たちのもとに火球が飛んでくる。

しまった。

この隙に——フューが放っていたのか。


俺は咄嗟にキセキの前に立った。


──ガーディアンが、発動する。


火球は透明な壁に阻まれ、霧散した。



「ほう……なんだその式術は。面白い。もっと見せてみろ。

おい、タガロ!あれをやれ。そのガキに向けてな」


ボイドが立ち上がって言った。

──あれとはなんだ。


俺は、即座にガーディアンを解除する。

一度式術を切らないと、時間がもたない。

ガーディアンの効力は一分。


再発動が、間に合うか?


もし連続攻撃なら──耐久時間の問題もある。


タガロは、両手を上にあげ、水の塊を両手に作り出した。

──とんでもない大きさだ。


直後、それが何かに押しつぶされるように小さくなっていく。


「ブルーキャノン!」


水の塊が、とてつもない勢いで俺の元へ飛んでくる。


まずい。


破壊力と波状攻撃。


その両方で来るとは──。


ガーディアンの発動は間に合ったが──持つのか。


エイナはフューと交戦している。


が、劣勢だ。


こいつら──強い。


このままじゃ──負ける。


メイとラウルがいれば──。

俺がそう思っていると、水の波状攻撃を打ち消すように、

とてつもない火球が飛んできた。


……え?


フューのものよりはるかに大きい。


まさか……新たな敵?


それは……厳しすぎる。


俺は絶望しながら、その火球をなんとかガードする。


すると、聞いたことのある声が聞こえてくる。


「アラタアァァ!!約束を!破ったなあぁぁ!」


赤い髪。高い伸長の屈強な男。


──六帝、イグラス。


なんでこんなところに。

イグラスは俺のところに近づいてくる。


「俺との約束を破って、こんなところで戦っているとはどういうことだ!」

完全に怒っている。

まずい。説明しなくては。


「違うんだ、イグラス。約束は守るつもりだったんだ。

だけど、急遽邪魔が入って、そっちに行けなくなったんだ」


適当な、苦し紛れのいいわけである。

──実際、半分騙そうとしていたので、仕方がない。


「なに?邪魔だと?誰に邪魔されたんだ」

イグラスは俺に顔を近づける。


俺は、顔を遠ざけながら、指をさす。


「あいつらだ。俺たちの仲間を殺しに来ている。

倒してからじゃないと、お前とは戦えない」


イグラスは、俺が指さした方を見る。


ボイドは目を見開いている。


「な……貴様は、〝赤帝〟……なんでこんなところに」


「お、悪徳六賢のボイドじゃないか。お前、また悪いことしているのか」


──二人は旧知の中のようだ。

そして、ボイドの怯え具合から──イグラスの方がうわてということが分かる。


「おい、タガロ、フュー!ちょうどいい。こいつも殺せ!

ここで赤帝を倒せば──アーカーシャからの評価も上がるはずだ」


ボイドの指示に、イグラスが眉を動かす。

「殺す……?誰をだ?それは、殺し合いということでいいんだな?」


怒っているというより──嬉しさをこらえているように見える。


「ふっ。なめるなよ。いくら六帝とはいえ、十八将二人は相手にできんだろう!」


その言葉を聞くと、イグラスは両手を天に掲げた。


「久しぶりにっ……!!全力で戦えるっ……!」


目から涙を流している。


──どれだけ戦闘に飢えていたんだ、この男は。

だが。

このピンチの状況では、ありがたい。



「相手はどっちからだ!まとめてでもいいぞ!

おっ……お前は見たことあるぞ!」


イグラスはフューを見て言った。


「チグル村のフューです。ご無沙汰しております。赤帝様。

ですが、すいません──指示ですので」


フューは、挨拶もそこそこに特大の火球を放った。


イグラスはそれを片手で作り出した火球で相殺する。


「おおっ!立派になったな!だがまだまだだ!次は、そこの少年か!?」


「六賢も六帝も……馬鹿しかいないのかよ」

タガロは、顔に怒りをにじませている。

「もういいよ。どうでも。俺は青帝なんてなりたくない」


それを聞くと、ボイドが立ち上がり、タガロに近寄っていく。


そして──思い切り顔を殴った。

タガロは地面に転がる。


「自分が何を言っているか分かっているのか?

お前を青帝にするために──どれだけ俺が努力したと思っている。

すべてはアーカーシャの意志のために。

全部お前のためにやってるんだぞ」


タガロは立ち上がる。

頬を押さえながら、呟く。

目には──あきらめの表情が見える。


「……俺のため?俺がそんなことを頼んだか?」


「ふむ。親子喧嘩か。──まだ親離れできない年頃か。

まあいい。準備できたらかかってこい」

イグラスが腕を組みながら言った。


だが──その言葉がタガロに火をつけたようだった。


「うるせえんだよ、どいつもこいつも!!」

激昂したタガロの両手から、とてつもない大きさの水の塊が生まれる。


それを思い切り、イグラスに向かって放つ。


「おおっ!!これはやばそうだな!申し訳ないが、全力で行くぞ!

死んでも文句を言うなよぉお!!」


イグラスは、更にそれを上回る大きさの火球を作り出し、

タガロに放った。

一瞬で水を打ち消し、炎はタガロに向かって突き進んでいく。


……これはどう見ても防げない。


タガロは、死ぬ。


俺がそう直感した直後。


火球の前に、人影が割って入る。


「……フュー!!」

タガロの叫ぶ声が聞こえる。


フューは少し笑い返すと、全力で火球を放った。


だが。


六帝──イグラスの火力には遠く及ばない。


押し戻され、直後。

フューの身体は炎に包まれる。


「フュー!!」


とっさにタガロは水を放って消化するが──

赤帝の業火は、一瞬でフューの身体を消し炭にした。


嫌なにおいが──あたりに立ち込める。


フューは、かろうじて上半身だけ残ったまま、地面に転がっている。


「うおおおぉぉぉ!!!」


タガロの咆哮が響き渡る。


両手に、フューを抱きかかえる。

──手から真っ黒な灰がこぼれおちる。

下半身は、完全に灰になっている。


「タガロ……さま……」


「フュー!しっかりしろ!今、緑の式術をかけてやる!」

タガロは必死に緑の式を発動する。


俺はエイナと目が合う。

エイナは、小さく首を振った。


──そうだろう。

あれでは……もう助からない。


「タ…ガロ。立派な……青帝になって…ね」


「フュー!やめろ!おい!俺を一人にする気か!」


フューは、最後に小さく微笑むと──目を閉じた。


人が──死んだ。


俺はイグラスを睨んだ。


ここまでする必要は──あったのか。


しかし、イグラスも放心した状態で自分の手を見ている。


──もしかすると、フューの登場は誤算だったのか?

タガロなら守り切れる、そう判断しての式術だったのかもしれない。


タガロは、沈黙のままフューの亡骸を地面に置くと、

ゆっくりと歩き出した。


イグラスに向かって、まっすぐに。


「なんで殺した」


「……フューが出てくるとは思っていなかった」


「ふざけるな!お前の炎で……フューは死んだんだぞ」

タガロはイグラスの胸倉をつかむ。


イグラスは、黙ってそれを見ている。


「よし!いいぞ!タガロ!イグラスを殺せ!

そうすれば、フューも報われる!」


後ろから──ボイドの声が響く。


俺がその声に怒りを覚えた瞬間。


ボイドは水の塊に弾き飛ばされ、家の壁にぶつかった。


一瞬。


そして、凄まじい圧力。


「うるさいんだよ」


──タガロだ。


タガロが、ボイドに向かって青の式術を放ったのだ。


ボイドは壁に頭をぶつけ、その場に倒れこんでいる。


「六帝も、六賢もくだらない。……全部潰してやるよ」


一言だけ言うと、フューの亡骸を振り返り——

タガロはその場を去った。


──今起きた出来事のあまりの衝撃に、タガロを追うものは誰もいなかった。



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