第七十二話 ステラに迫る危機
「ボイド。──あの六賢も絡んでたんですね」
エイナが言った。
俺たちはまず、エイナの家に向かった。
先ほどの出来事を、報告する。
「知ってるのか?」
俺が聞くと、エイナは頷いた。
「心理学の権威であると同時に──人材管理局長です。
世界中から──帝国の要となりうる人材を見つける仕事です」
「──じゃあ、六帝を選ぶのもボイドってことか?」
俺の質問に、エイナは首を振る。
「いえ。それはアーカーシャのはずです。私も叔父様に聞きました。
あくまで、人材管理局は見つけて推薦するだけです。
──かくいう私も、人材管理局の推薦で十八将になりました。
ボイドではなかったですが」
「──ステラが狙われている。俺たちで、なんとかしなくちゃ」
「恐らくボイドは、これまでの六帝の選出基準を把握しているのでしょう。
その上で──ステラが有力と踏んだ。
確かに、叔父様も言っていました。〝前の六帝との関係性〟が影響している可能性があると」
「にしても──殺すってのは……やりすぎじゃないのか」
「真っ向からそれを行えば、犯罪行為となり──即死刑になります。
恐らくボイドは何らかの口実を作っているはずです。
アーカーシャに対して、説明ができるだけの」
「……なあ。気になってたんだけど、アーカーシャってのは国のことなのか?誰か人のことなのか?」
俺は気になっていた質問をした。
「──それは、私も分かりません。行ったことがありませんから。
ただ、それが一つの〝意志〟であることは間違いありません。
このユグラシアのすべては──アーカーシャの〝意志〟によってきめられています」
……余計分からなくなる。
だが、今はそれを気にしている場合じゃない。
対策を練らないといけない。
「その口実ってのは、想像がつくのか?」
俺が聞くと、エイナは少し考え込んだ。
「ステラ自身が犯罪や帝国に損害を与える過失を起こしていれば、私刑による殺害も認められます」
「権力者の特権、ってやつか」
俺は、デュランの指示のもと、サーラがロイスを影だけにしたあの光景を思い出す。
──できれば、消し去りたい記憶だが。
俺は、忘れるわけにはいかない。
一生向き合っていかなくちゃ。
「はい。ですが──彼女自身に瑕疵は見当たりません。だとすれば」
「……プルークさんか」
俺が言うと、エイナは頷いた。
「師匠は海洋管理の仕事をしばらくできていないと言っていました。
──それを業務怠慢と捉えるなら。
師匠に対して私刑は成立します。
その際に抵抗したステラを殺してしまった、とすれば……」
「情状酌量でおとがめなし、ってことか。
待てよ。じゃあ──プルークさんが危ないじゃないか」
俺が言うと、エイナが立ち上がった。
「急ぎましょう。師匠の家に」
あの家には、二人しかいない。
寝たきりのプルークと、ステラ。
いくらステラが高位式者だとしても、プルークをかばいながらの戦い。
——危険すぎる。
エイナは、車のアクセルを踏み込んだ。
その顔には、らしくない焦りが見えた。




