第七十一話 尾行、そしてボイドの狙い
「今のところ……おかしな動きはしていないな」
俺は、小さい声で呟いた。
俺とキセキは、気配を隠しながらボイドたちの尾行をしていた。
ボイドと二人の連れは、ヴァレンティアの街で買い物を楽しんでいる。
「まるで観光だね」
キセキが答えた。キセキは、サングラスと帽子をつけている。
……絶望的に似合っていない。
──尾行といえば変装かと思ったが。
逆に目立っているかもしれない。
「どういう関係かも分からないしな。なんとか会話の内容を聞かないと」
俺が呟くと、タイミング良く三人はレストランに入っていった。
俺は帽子のつばを下げる。
「キセキ、チャンスだ。行くぞ。──変装しといてよかったな」
俺たちはできるだけ自然に店に入った。
店員に一瞬訝し気な顔で見られた気がするが、
この大都会では色んな人間がいる。
特に問題なく店内に案内された。
都合よく三人の後ろの席が空いていたので、そこに座る。
俺たちはジュースとパンケーキを注文して、
三人の話を盗み聞きした。
「父さん、本当にやるの?」
青い髪の少年が、ボイドに言った。
「やらないと可能性は低い。タガロ、青帝になりたいんだろう。
覚悟を決めろ」
ボイドが答えた。
──どうやら、親子のようだ。
「フュー。タガロは少し気の弱いところがある。
才能はあるんだがな。お前が助けてやってくれ」
「はい、ボイド様。──タガロ様のために働きます」
女の声。
──赤い髪の少女だろう。
「フュー、〝様〟はやめてくれよ。昔みたいにタガロでいいって」
タガロが、フューと呼ばれた少女に言った。
「……いえ。今私の雇い主はタガロ様ですから」
「やりづらいよ。幼なじみなのに」
──どうやら、タガロとフューは幼なじみのようだ。
ボイドとその息子タガロ。その従者フュー。
関係図はなんとなく見えた。
「しかし──聞くところによると、ステラは相当な式者だぞ」
ボイドの声が聞こえる。
──ステラ?
思わず耳を疑った。
その名前が──なぜこんなところで出てくる。
たまたまなのか?
「……気が進まないよ。青帝にはなりたいけど……正々堂々選ばれたい」
タガロが小さい声で言った。
「だからお前は十八将になるのも遅れたんだ。どんな手段を使ってでも、欲しいものを手に入れるのが男だろう」
「……そんな考えは古いよ」
「このままだと、プルークの一番弟子のステラが青帝になるぞ。
──これまでの選定基準を振り返るとな。
だが──ステラがいなくなれば、お前が選ばれる可能性は格段に上がる」
プルーク。ステラ。
──二人並べば、間違いない。
俺の知る、二人の青の式者のことだろう。
こいつらは──何をしようとしている?
タガロはしばらく黙った後、小さい声で、しかしはっきりと言った。
「でも……殺すなんて」
「おい!タガロ!」
ボイドが大きい声を出す。
「こんなところで話すんじゃない。誰が聞いているか分からんぞ」
ボイドは店内を見回す。
俺は、キセキと談笑しているふりをする。
──勘が鋭い男だ。
だけど。
残念ながらはっきりと聞かせてもらった。
タガロはため息をつき、立ち上がった。
「どうせ、みんな自分たちのおしゃべりに夢中だよ。
──もういいよ。フュー、出よう」
「あ、おい!まだ食事が来ていないぞ」
「──食べる気が失せた。父さんはゆっくり食事をどうぞ」
タガロは手を上げて帰っていく。
フューは、黙ってそれについていく。
俺とキセキは、黙ってジュースを飲んでいた。
──とんでもない話を聞いてしまった。
ステラの──暗殺計画。
早く戻って伝えなければ。
俺たちは、ジュースを飲み終えると立ち上がった。
ボイドと目を合わせないようにする。
もっとも、俺たちのことなど忘れているかもしれないが。
──俺たちは忘れることはない。
あの時の屈辱を、無力さを。
ステラを殺すなんて——させない。
今度は必ず守る。
俺は心の中で誓った。




