第七十話 ヴァレンティアにて。
翌日。
俺とキセキはヴァレンティアの街を散策していた。
プルークは体調が悪くなったようで、ステラが看病している。面会どころではなかった。
エイナは自分のせいかと反省し、一旦自宅の様子を見に行った。
一人で考えたいこともあったのかもしれない。
メイとラウルは——例の〝式術斬り〟を鍛えたいと言って、どこかに修行へ行った。
危うく付き合わされそうになったが、街でアーカーシャの情報を集まる、と適当な嘘を言って切り抜けた。
最近、戦い続きで疲れた。
たまには心を休ませたい。
「しかし……信じられないな。これが帝国の技術か」
昼間に見ると、改めて圧巻である。
アルカディアを大都会と思っていた自分が恥ずかしい。
建物の高さも、きらびやかな装飾も、まるで未来都市だ。
建物の壁面には——人が映って、動いている。
エイナが言うには、あれも電気で動いているらしい。
どういう仕組みだよ。
生きている人間が壁に閉じ込められているみたいだ。
「父さんたちが来たら驚くだろうね」
キセキが言った。
「そうだなぁ。アルカディアより、百年くらい進歩してる気がするな。驚くと言うより、がっかりするかも」
俺はそう言って笑った。
「いつも、アルカディアが最先端、みたいなこと言ってるもんね。想像すると笑えるね」
俺たちは二人で笑った。
ふと思う。
両親たちは——どうしてるだろうか。
弟や妹は元気だろうか。
ある意味エイナのおかげで俺はホームシックの心配はないが、可愛い子どもたちが三ヶ月も行方不明で心配にならないのだろうか。
親離れしたくて冒険に出たので、寂しいわけではないが……いや、少し寂しいかもしれない。
「ねえ、あそこ。子どもがいっぱい集まってるよ。行ってみようよ」
キセキは走り出した。
箱のようなものに、人が動く映像が写っている。
——それを操作しているのは、子どもたちのようだ。
全く、一体どうなってる。
キセキは子どもたちに混じってそれをやらせてもらっている。
こいつは、どこでも生きていけそうだな……。
俺はそんなことを考えながら、人の流れを見ていた。
昨日と変わらず、みんな端末を見ながら歩いている。
何が楽しいんだろうか。
——その時。
俺の視界によぎった顔に、記憶が反応した。
あの顔は——まさか。
俺はキセキの元へ走る。
「キセキ、来い!」
遊びを中断されて不満そうな顔だが、俺の表情を見てキセキは察したようだ。
「なに?緊急事態?」
走りながらキセキは聞いた。
「……まだ分からない。だけど、俺の目が確かなら——」
俺は角で止まり、建物の影から先ほどの人影を見る。
「なぁ、キセキ」
俺は小声で呼び、顎で方向を指示する。
キセキがそちらを見ると——顔色を変えた。
「あれは——デュランの仲間にいたやつだ。
確か——ボイド」
「よく覚えてるな。確か、そんな名前だった。
間違いないのは——あいつはアイネをさらったうちの一人だ。どうしてこんなところに」
眼鏡の細身。まるで虫のような、嫌な存在感。
俺はガリアでの出来事を鮮明に思い出していた。
空を一瞬で覆う雲。一閃。
ロイスを焼き尽くした——〝黄帝〟サーラの雷。
無意識に、足がすくむ。
怖いのか?
いや、違う。
武者震いだ。
「でも……横にいるのはデュランとサーラじゃないね。
若そうだ。僕らと同じくらいじゃないかな」
キセキに言われて、俺もそちらを見る。
青い髪の少年。
隣には、赤い髪の少女。
——式術者だ。
「ここまま逃がすわけにはいかない。
……あいつらを捕まえよう。そうすれば、デュランの——アイネの居場所が分かるかもしれない」
俺は自分に言い聞かせるように言った。
「どうやって?」
「……それはこれから考えるんだよ。まずは——尾行するぞ」
こんなことなら、メイとラウルもこっちに連れてくるべきだった。
だが、後悔しても仕方ない。
見失ってしまっては台無しだ。
必ず——捕まえなければ。




